師匠の地位を超える弟子

 【2月6日】

 具志川ドームのエントランスで和田豊と話をした。キャンプ前からファーム監督に聞きたいことがあった。新人野手の潜在性についてである。とても優れていると専らの評判だが…。

 取材者としては当然その評判をこの目で確かめたいし、指導者のぶっちゃけ話も聞いてみたいものだ。

 「みんな、いいもの持ってるよ」

 僕の直撃に和田はそう言った。まさかネガティブな話をこの時期にするわけがない。とくに和田という指導者はよほどのことがない限り、否定から入ることがない。こちらも聞き方を変えなければホンネを引き出せないか…なんて思ったりもする。ちょっと意地の悪い取材になったかもしれないが、こんなふうにぶつけてみた。

 例えば…いまの若虎の中で和田豊のキャリアを超える選手は、そう簡単に出てくるものではないと思いますが?

 「いや、そんなことないだろ」

 ご自身の成績を俯瞰する機会はなかなかないでしょうけど…。17年間現役を続け、通算安打1739本。単純にこの数字を凌駕するとなれば、阪神に限らず、ハードルは高い。変な聞き方ですが、教え子たちに、この数字を超えてもらいたいという思いは?

 「そりゃ、あるよ。というか(二遊間の選手でいえば)中野拓夢あたりは軽く超えるんじゃない?」

 さて、ここからは一般論として、じゃ、これを超える潜在性は?

 「一年やる選手は結構いるんだよ。それがなかなか続かないのは事実。そうしている間に下の選手が入ってきてまた競争しないといけなくなる。そんな選手がほとんどの中で、中野はしっかりポジションを掴んで、岡田監督の中でもずっと構想にあると思う。昨年はWBCに出場した日本代表の選手が何人も成績を落としている中で、あいつだけはまた実績を積み上げてね…」

 宜野座の1軍キャンプでは、内野陣がOB鳥谷敬の指南を受けた第2クール初日である。中野はこれを財産にまたステージを上げる。岡田彰布は「三遊間は分からん」と、三塁、遊撃手のレギュラーを保障しない中で、中野と大山悠輔は「構想」から動かさない。

 「故障しないのが一番。『続ける』ということが、技術でもあり、引きだしでもあり、大きな武器になる」

 和田はそう言った。

 取材が終わり、具志川ドームの中をのぞけば、常設の土俵が見える。一年前にも書いたが、うるま市の中部農林高・相撲部の先生が和田と同じ日大出身で、相撲部。同大から名力士を生んでいる縁もあり、ここ具志川ドームでは高校総体相撲大会や大相撲沖縄場所が開催されるのだ。

 相撲といえば、昨秋他界した元大関朝潮(先代高砂親方)のお別れの会が前日都内で開催され、弟子で元横綱・朝青龍も参列、コメントを残した。

 「師匠は自分の地位を超える弟子が欲しいとよく言っていて、その夢を叶えられました」

 師の悲願は自身の地位を超える教え子の台頭…〈土俵〉は問わない。和田も鳥谷もしかりである。=敬称略=

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