星野仙一イズム

 【6月16日】

 朝から大阪北港の舞洲(まいしま)サブ球場へ行ってきた。雲一つない青空の下、ウエスタン・リーグのオリックス戦で先発した藤浪晋太郎を見させてもらった。結果は虎番の原稿を読んでもらうとして、僕が興味深いのは、今後の藤浪に対する育成方針である。

 この日、阪神球団本部長の高野栄一がバックネット裏の最前列で背番号19の投球を見守っていた。藤浪が出場選手登録を抹消されて21日。この期間、高野は藤浪の経過を見る為にあちこちへ足を運んできた。阪神の至宝を何とかしたい。その一心なんだと思う。

 ドラフトで甲子園春夏連覇の逸材を引き当てた瞬間から、色んな臆測が飛んでいた。阪神では育たないんじゃないか。フロントはそういう趣旨の話をイヤというほど耳にしてきたという。大器を潰したら大変。慎重に大切に…。誤解を恐れずに書けば、球団の思いは理解できるし、当事者の立場に立てば過保護にして当然だと思う。

 ここに来て伸び悩む(?)理由も色々と言われている。甘やかし過ぎ-そんな声もある。ただ、短絡的に理由を限定してしまえば、打開策の道筋を見失いかねない。

 タイガースは特別な球団だと言われる。関西のメディアからスター扱いされ、「勘違い」して消える選手も多いと昔から言われてきた。では藤浪もその類か。いや彼は自身を俯瞰したところがある。関西でどれだけ持ち上げられても“ローカルスター”の域を出ないことを認識している。高野は処方箋を模索しながら、まだ明確な「答え」を見つけられていない。

 夕方、舞洲から甲子園へ移動すると、三塁側のブースに楽天副会長の星野仙一の姿が見えた。星野が阪神を指揮した2シーズン、いろんな意味で、この球団の伝統的な概念が覆されたと感じる。

 「チーム全体の底上げは簡単にできないし、結果的にはコイツやと思った選手をひいきした方がいいんだ。ひいきされていない選手もいるから、それが競争を生む」

 星野はかつてそんな発言をしたことがある。選手に差別化は必要…そう説く一方で、全体の緊張感を絶やさない指導者でもあった。

 舞洲で2軍コーチの今岡真訪(誠)に聞いた。星野政権1年目の02年夏、東京・赤坂のチーム宿舎でチーム全員に語られた闘将の言葉が忘れられないという。

 「お前らみんな、来年ユニホームを着られると思っていたら、大間違いだぞ」

 個人の話ではない。対象は若手もベテランも全員。今岡は言う。

 「『褒めて伸ばす』ことと『緩い』のは紙一重でしょ。選手を盛り上げる空気。緊張感を持たせる空気。そのメリハリが凄かったです。そういう意味で今のチームは金本監督でそんな(星野時代の)空気感があるんじゃないですか」

 交流戦の勝ち越しを決めた夜。金本知憲のもとへ藤浪の報告が入った。強い鯉を追うために欠かせない力。それでも、金本は急がせないはずだ。チームバランスと差別化、そして育成。メリハリのジャッジが必要になる。=敬称略=

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