糸井、弾丸5号 14打席ぶり安打でトドメ
「阪神7-2中日」(5日、甲子園球場)
ライトの定位置に駆け出しながら、黄色で埋まるアルプスを眺めた。少年少女が声をからして名を叫ぶ。「糸井、糸井!!」。ヒーローは帽子を取って控えめに頭を下げた。FA移籍2年目、優勝を渇望するプロ15年目。スタンドから夢を抱いた少年が、5号2ランでダメ押し点を奪った。
六回だ。リードは3点。阪神・糸井は1死一塁で打席に立った。代わった伊藤準に対して、1ボールから2球目。内角低めの144キロツーシームを狙った。軸回転で振り抜いた打球は、弾丸で右翼スタンドに突き刺さった。4月28日の広島戦以来、6試合28打席ぶりの一発。14打席ぶりの安打で、勝利を決定付けた。
「しっかりとスイングできました。良いタイミングで追加点が取れて良かったです」
三回には今季3個目の盗塁を決め、ロサリオの左前適時打で生還。打って、走って、3番打者が勝利には欠かせない。5月5日。こどもの日に夢を届けた。幼少期、初めてプロ野球を生で見たのが、甲子園球場の阪神戦だ。アルプススタンドから、真弓明信の本塁打を見た。カクテル光線に揺られ、描かれた放物戦に憧れた。
「やっぱり鯉のぼりよ。でっかいのを立ててね。そういえば最近、見てないな。田舎だけかなあ」。京都府北部の出身。胸に残るこどもの日を思い出し、自然と鯉のぼりの歌を口ずさんだ。「こどもまつり」と銘打ち、多数のイベントが開催される甲子園6連戦。今季最多4万6638人の前で、ヒーローが大きな贈り物を届けた。
4打数1安打。大勝に終わった試合後、1本の安打を喜ぶ以上に、3本の凡打を悔やむ。「ボールが見えへん」。つぶやき、厳しい表情でクラブハウスに消えた。求めるのは勝利につながる一打。チームを優勝に導くために移籍した。飽くなき向上心。鯉の季節に天高く、上昇気流に乗る。
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