「鳥谷外し」…監督と選手の間に聖域の概念はない

 「広島5-8阪神」(24日、マツダスタジアム)

 阪神の鳥谷敬内野手(35)がスタメンから外れ、連続試合フルイニング出場が667試合でストップした。

  ◇  ◇

 言うまでもなく、スタメン起用の決定権は監督にある。選手は決定に従う。この大前提を見失うと、ゆがんだ議論になりかねない。

 虎将金本が不振の鳥谷を外すべきという論調はあっていいが、鳥谷が自ら外れるべきだった-などという批判があるとすれば、組織論を逸脱している。

 指揮官の裁量で鳥谷は前夜まで今季92試合先発でフルイニング出場を続けてきた。金本は「鳥谷の先発を外すことを考えたことはある」と言う。なぜ、踏み切らなかったのか。理由は「ショートの代役がいないから」(金本)。23日時点で打率・231、10失策。攻守において精彩を欠いていても、取って代わる遊撃手が不在という判断で、指揮官はオーダー表に「鳥谷」と記し続けた。

 開幕前に直接聞いたことがある。仮に鳥谷が低迷を続けることがあっても、ある程度は連続試合フルイニング出場の記録に配慮するのか、と。金本の答えは「フルイニング?それはないよ」。代役不要で試合に出続けることがモチベーションになることは自らの経験上、理解する。だが「記録更新のために」という理由で“配慮”する選択肢は、今回の場合は現実離れしているとも考えていた。連続フルイニング出場の世界記録は金本の1492試合。667試合の鳥谷が到達するには、あと6年かかるのだ。

 10年4月18日、当時自らの世界記録を更新していた鉄人は真弓明信監督に直訴して先発を外れた。当時の裏話がある。同日、真弓は金本から「外してください」と言われ、こう返したという。

 「明日(月曜で試合が)休みだから、きょうもう1日だけ何とか頑張れないか。そうすれば火曜には、また状態が良くなっているかもしれないだろ」。右肩の棘上(きょくじょう)筋を完全断裂していた金本は「いえ、もう限界です」と、指揮官の指令に首を縦に振らなかった。

 金本はのちにこうも話していた。

 「真弓さんがずっと『出てくれ』と頼りにしてくれて、俺もそれを意気に感じて何とかしたいと色んなことを試したけど、ダメだった。星野さんだったら、もっと早い段階でベンチに下げられていたかもしれないな」

 選手は仕える監督の駒であり、出ろと言われれば痛いかゆいなど言えない。引っ込めと言われれば問答無用で退く。特別な配慮はないと言っていた金本だが、鳥谷と既に3度、話し合いの機会を持っていた。こちらがその情報を聞きつけ探ったことがあるのだが、金本は鳥谷の心情を思い、否定し続けた。

 この夜、ベンチからグラウンドを眺める鳥谷はすがすがしい表情に映った。ショートは「聖域」などと揶揄(やゆ)する声があったとすれば、それは当事者2人の認識とは実はかけ離れているように感じる。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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