岩貞母、祈りの日々が1勝呼び寄せた

 「DeNA2-5阪神」(17日、横浜)

 阪神のドラフト1位・岩貞祐太投手(22)=横浜商大=が、2度目の先発でうれしいプロ初勝利を挙げた。5回2/3を投げ4安打2失点。DeNAの助っ人に連弾を浴びる洗礼も受けたが、大学時代を過ごした横浜での記念星となった。

 岩貞の母・多恵子(48)さんは、初勝利を熊本の自宅で見守った。この日の試合前、地元の「健軍神社」を参った。登板当日には闘いの神様に手を合わせる。息子のため、大学時代に続けたお参り。母の願いが、記念すべき1勝を呼び寄せた。

 ここまで苦難の道のりだった岩貞。母も同じように苦しんだ。2月の春季キャンプ。プロ初実戦を見届けようと、沖縄に足を運んだ。そこで、息子の異変を感じ取った。だが、待てども連絡はない。「ひょっとして…」。嫌な予感は的中する。左肘痛の発症。復帰まで数カ月を要するケガ。すべてを知ったのは、新聞の報道だった。

 「昔から、悔しいとかマイナスの気持ちは表に出さないタイプ」だった。だからこそ、連絡がなかったことで、重傷だと察知した。「心配で心配で。どうしても電話をかけられなかった」と、不安が体中を駆け巡った。

 いても立ってもいられず、近所の「足手荒神」に何度も足を運んだ。手足のケガや病気の平癒祈願に、全国から訪れるという熊本の有名な神社。一日でも早く治るよう、ただ祈る日々が続いた。

 願いは通じ、リハビリは順調に進んだ。そして、7月のフレッシュ球宴。長崎に出向いた。5カ月ぶりのマウンドにいる姿は、本当に楽しそうだった。試合が終わると突然、携帯電話が鳴った。「今日、どうだった?」。電話の向こうで弾んでいた声。電話をかけてくるほど、野球が楽しかったのだ。あんなに無邪気な姿は高校以来。「良かったよ」と答えて、少し胸をなで下ろすことができた。

 苦しいときを乗り越え、気づくと8月になっていた。テレビを通して見る息子の笑顔。「やっと、いつもの顔に戻った」。楽しく野球をする祐太がいる。初勝利以上に、いつもの笑顔が、母にとっての宝物になった。

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