【松本浩彦医師】娘の「お父さん、クサい」はゲノムの声

 【Q】高校生の娘から、服を一緒に洗濯しないでと言われました。加齢臭?(40代男性)

 【A】体臭は、頭皮や胸元、耳の裏など、皮脂の分泌が盛んな場所から強く発されます。皮脂が皮膚に常在する細菌によって分解される過程に、加齢、栄養状態や喫煙、飲酒などの要素が加わり、その人固有の体臭が形成されます。

 実はわれわれ人類は、穴グラ生活をしていた時代から、繁殖のための相手を選ぶのに「匂い」を頼りにしていました。男性は若い女性の体臭を鋭敏に嗅ぎ分けますし、女性は繁殖可能な年齢になると、特に近親者の匂いを嫌うようになります。これは近親交配を避けるために、進化の過程でヒトが獲得した能力の一つなのです。

 これにはHLA抗原(大雑把に白血球の血液型と考えて下さい)という物質が大きく関与しています。この世に何万通りもあるHLA型は遺伝子で決まり、体臭を決める遺伝子は父親と母親から半分ずつ子に受け継がれます。

 犬でも猫でも雑種は丈夫だと言われますが、ヒトも同じで、遺伝子が遠い組み合わせほど免疫学的に強い個体となります。そして女性には、男性の遺伝子が自分と近いか遠いかを体臭で見分ける能力があるのです。良い匂いだと感じる男性はHLA抗原型が大きく異なっており、逆に父親のようにHLA型が半分同じという近い遺伝子をもつ男性の体臭をクサいと感じるのです。

 ですので「お父さんの服と一緒に洗わないで!」と娘さんに言われたお父さんは、傷つくどころか、娘さんが立派な「メス」に成長した。本当に自分の血を分けた娘だ。ということの証拠で、むしろ喜ぶべきなのです。

 思春期の女の子がお父さんをクサいと言うのは、近親相姦が起こらないよう自然の力がそう仕向けているのです。「お父さんの洗濯物と一緒にしないで」は、自分に近い遺伝子を嗅ぎ分け遠ざけている、まさに「ゲノムの声」なのです。

 ◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ) 兵庫県芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、(社)日本臍帯・胎盤研究会会長。

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