【ライフ】熊本被災地で犬専用ボタンで自動ドアを開ける飼い犬が大人気

 熊本地震の被災地・熊本市で、地域の人たちにほのぼのとした笑顔を届けている看板犬がいる。カギの交換や合カギ作りなどを行っている「カギ救急センター 熊本合カギセンター」(熊本市東区、村上俊春社長)のジャック(オス8歳)だ。ジャックは店に入る時、「犬用」と書かれたボタンを自分で押して自動ドアを開ける。あまりのかわいさに女性客は「キャー!」「すごーい」と声をあげてしまい、ジャックはまんざらでもない表情を見せた。

 「お仕事中です!警備係ジャック」と書かれた札を首にぶら下げて、来店客を今日も元気に出迎えている。ジャックは、社長の村上さんの飼い犬。生後1カ月半ほどの時、熊本市の動物愛護センターから譲り受けた。

 「小さいころ捨てられてセンターに保護された犬なんです。4匹兄弟の中で一番チャーミングだったんですよ」と村上さんは振り返る。人なつこく、おっとりとした性格で、益城町にある村上さんの自宅から、毎日車で一緒に店まで出勤。会社での担当は「警備係」。店内外の見回りや接客が主な仕事だ。

 ジャックにはある特技がある。それは店の自動ドアのボタンを自分で押して開けること。店入り口の自動ドアをよく見ると、「お客様用ボタン」のはるか下、地面すれすれのところに、なんと「犬用」と書かれたボタンが!ジャックは左前脚でそのボタンを器用にタッチし、店前から自分で中に入ってくる。

 それにしても、なぜこんなボタンが?村上さんは「この犬用ボタンを作ったのは2008年ごろ。13年に亡くなった先代の警備犬・ロックが、お客さんと一緒に外に出ていってしまうことがあり、自分ですぐ店に戻ってこられるようにと設置したんです」と話した。

 すぐにロックは右前脚でボタンをタッチして自動ドアを開けられるようになった。その姿をそばで見ていたジャックもまねをしてできるようになったという。先輩から引き継いだ技だったのだ。地元ではジャックのファンは多く、ドッグフードなどのプレゼントを持ってきてくれる人も。

 これまでテレビや新聞で何度も報じられ、ネットではその様子を撮影した動画が話題になったことも。つい先日のお盆にも、京都から「ジャックに会うために来た」という家族連れもいたといい、遠方からわざわざやってくる人も増えた。

 今年4月、熊本地震が起こった時、村上社長とジャックは、益城町の自宅で就寝中だった。建物は幸いにも大丈夫だったが、震度7の激震に見舞われた家の中はめちゃくちゃに。「ジャックはダイニングルームのケージの中で寝てたんですが、屋根がないので、そこに食器棚の茶わんとかがいっぱい降るように落ちてきて…。さぞ怖かっただろうと思います」自宅の片付けもよそに、村上さんはすぐ店に駆けつけた。「家の扉が開かない」、「カギが壊れて閉まらない」、「避難するにあたって戸締まりをしたいけどカギがない」、「家が崩壊して中にある車のカギを取り出せないため車が動かせない」、「金庫が開かない」など、被災した人たちからのSOSの電話がひっきりなしにかかってきた。

 社員全員が会社の車5台で町を走り回り、2カ月間ほどは「平常時の5倍以上の忙しさだった」という。「地震の時は大変でしたが、仕事で疲れて戻ってきた時でも、ジャックはいつも尻尾をふって喜んで僕を出迎えてくれるんです。それがなにより心の支えでした」と村上さん。

 余震が相次ぎ、揺れへの恐怖からか、しばらくは家の中に入るのを嫌がっていたジャックだが、震災から4カ月がたち、これまでのように地域のお客さんたちに自動ドアを開ける特技を披露している。「特に女性から『キャー!かわいい』とか『すごーい!』と褒められると快感みたいなんですよ。まんざらでもないといった顔しますもんね」と村上さん。ジャックの体を優しくなでながらほほ笑んだ。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

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