空振りに見た清宮がスーパーな理由

7月30日、詰めかけた報道陣の前でフリー打撃を行う早実・清宮幸太郎(中央)=東京・王貞治記念グラウンド(撮影・開出牧)
7月30日、囲み会見で一年生らしい笑顔が弾ける早実・清宮幸太郎=東京・王貞治記念グラウンド(撮影・開出牧)
7月30日、ロングティーを行う早実・清宮幸太郎(左)=東京・王貞治記念グラウンド(撮影・開出牧)
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 スーパー1年生は、甲子園でどんな活躍を見せるのか。早実・清宮幸太郎内野手の甲子園デビュー(8日第1試合、対今治西)が、待ち遠しい。

 7月30日、早実の公開練習を取材することになった私は、スーパー1年生を取材できる喜びと共に、試合では見られない、初々しい16才の素顔を写真に残したいと意気込んでいた。

 それにしても、まだ甲子園の土すら踏んでいない選手が、ここまで注目を集めたことが、かつてあっただろうか。日本ラグビー界の名将(ヤマハ発動機監督)を父に持ち、リトルリーグ(東京北砂リトル)時代に通算132本塁打を放つなど、驚異的な成績を残した。アメリカで開催された世界選手権では、アメリカの野球ファンから「和製ベーブ・ルース」と呼ばれるほどだった。ある意味、リトルリーグ時代にすでに“スター選手”だったのだ。

 早実に入学すると、春の県大会から4番に座り高校通算13本の本塁打を放った。先の西東京大会では、20打数10安打10打点と暴れ、本塁打こそなかったが、非凡な打撃センスを見せつけた。さらに堂々と自分の言葉で試合後のインタビューに応える姿は、とても1年生には見えなかった。

 練習の取材開始時間は正午。炎天下にもかかわらず50人以上の報道陣がグラウンド前に集まっていた。マスコミ対応に追われる野球部関係者が、シャツを汗びっしょりにしながら取材ルールや撮影エリアについて説明していた。

 グラウンドの外から望遠レンズでスーパー1年生を探した。マジックで大きく「清宮」と書かれた純白のユニホームを見つけた。184センチ、97キロの巨漢は、野球部員の中でも一際目立っていた。

 バットを持って外野へ行く姿も堂々としていて、ロングティーを始めると、両翼93メートルのレフトフェンス前から、私がいる一塁側フェンスまで軽々と飛ばし、度肝を抜かれた。バットを構えて、振り抜く姿には、風格が漂っていた。

 フリー打撃が始まると、私は望遠レンズを担いでライトフェンス後方へ向かった。長打力のある左打者なら、右方向に打球が飛び、力強い振り切りが撮影できる。大勢の報道陣をバックに清宮を撮影できる絶好のポジションである。

 ところが、打撃ケージに入った清宮は空振りが多く、打ったと思ったらレフト方向へ打球が飛ぶ。ロングティーで見せた豪快さはどこへ行ったのか。大勢の報道陣の前で緊張しているのか。取材慣れしていない、初々しい1年生らしさなのか。

 しかし、この後、驚がくの事実を私は知る。室内練習場で行われた囲み会見でフリー打撃で空振りが多かったことについて聞かれた清宮は「試合で前に突っ込み過ぎていたので、ミートポイントを後ろにして、逆方向を意識したら、空振りしちゃいました」と、笑顔で説明した。

 私が見たと思っていた“1年生らしさ”は、練習の一環によるものだったのだ。並の選手なら、報道陣の前で少しでもいいバッティングを見せようとするだろう。しかし、清宮は自分で決めた練習のテーマを貫いた。大勢の報道陣が詰めかけた異例の公開練習の中で、平常心を保っていたのだ。

 わずか2時間の清宮取材だったが、改めてスーパー1年生のスーパー1年生たるゆえんを見た気がした。唯一、1年生らしさを見せたのは、インタビュー中、大粒の汗を額に浮かべながら、瞳を輝かせる表情だった。初めての甲子園に胸を躍らせていることが伝わってきた。

 きっと大観衆の甲子園でも、平常心を失わず、結果を残すにちがいない。いかんなく実力を発揮すれば、出世魚のように、ひと夏で「スーパー1年生」から「甲子園の怪物」へと成長することだろう。

(写真と文=デイリースポーツ・開出牧)

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