会社のトップと、平社員。企業によって異なるのだろうが、直接、会話を交わすことなんてほとんどないだろう。

　しかし、ある時、阪神の“平社員”に“社長”の言葉が直接伝わった。

　「育成になっても、思い切ってやれよ」

　阪神・金本監督が、今季育成契約となった西田直斗内野手へ送った言葉だ。オープン戦で１軍に合流した際、フリー打撃後に話しかけられた。それまで話しかけられたことなど「ほとんどない」という西田にとってはサプライズだった。

　だが、そこには理由があった。西田の打撃が指揮官に驚きを与えていたのだ。フリー打撃でみせた、西田の右方向へ引っ張る力強いスイング。左打者であれだけ振れて、しっかりと右方向に強い打球を打てる野手は最近では珍しい。広角に打てることが評価されることが多くなった時代で、信念を持ってスイングを続けている。これが指揮官の目にとまった。

　昨季、今岡２軍打撃コーチから徹底指導を受けた。ティー打撃ではステップの確認を入念に繰り返した。左足１本で立ち、軸を安定させる。スイングしても頭の位置はブレない。そうして、独自のスタイルを作り上げた。「今、やっている形でダメなら、後悔はないというか。これを続けていこうと思う」。確かな手応えを口にした。

　現在は２軍で少ないチャンスを必死につかもうとしている。

　「諦めているわけではなかったけど、支配下にいける、というやりがいを感じる言葉だった。今は（野球を）やってて楽しい、じゃないけど、そんな気持ちです」

　金本監督はきっと見てくれている。名前が呼ばれるその日まで、決して諦めることはない。（デイリースポーツ・山本真吾）