鉄拳、強制送還…前時代を知るから…

 「ヤクルト2-4阪神」(13日、神宮球場)

 今の時代では考えられない。広島カープを担当していた1999年。キャンプ地の日南天福球場で衝撃のシーンにお目に掛かった。練習中、当時ヘッドコーチの大下剛が5年目の福地寿樹の姿勢がなっていないと叱責(しっせき)し、平手打ちをかましたのだ。カープナイン、そして僕ら報道陣も凍りついた。

 「帰れ!」

 「帰りません!」

 そんな押し問答が数分続いただろうか。強制送還を命じられた福地は、ほどなくグラウンドから姿を消した。

 「あれは絶対に忘れない…。でもね、自分がこうやって指導者になってみて思うこともあるんですよ。大下さんが本当は優しい人だと知っていたし、色んな表現の仕方があるから。あそこまでやってくれるということは、今思えば俺ができていなかったんだと思うし、大下さんはあの日まで何度も何度も我慢していたんだと思う…」

 この夜、僕は神宮球場の一塁ベンチへ足を運び、ヤクルト守備走塁コーチの福地と17年前を懐かしんだ。広島からトレードで西武を経て、FA石井一久の人的補償として08年にヤクルトへ移籍。同年、赤星憲広をしのぎ盗塁王を獲得した遅咲きの苦労人だ。昨季三塁コーチャーとしてヤクルトのリーグ制覇に貢献した福地は今、指導者として、「育てる」醍醐味(だいごみ)を味わっている。

 福地の元同僚、金本知憲はこの夜、球宴前の総括会見で言った。「簡単にはうまくいかないと思っていたし、変われたとは思っていない」と。監督就任時、金本のバックアップを約束したオーナーの坂井信也は、今の時代の指導法について、シーズン前にこんなことを話していた。

 「今は情報があふれているので、昔みたいにコーチの言うことが絶対でこれしかないということではなくて、自分で色んな情報を取れる。我々の時代は上からこうだと言われたら金科玉条のごとく、それしかできないと思っていたけれど、今の時代はそうではない」 確かに福地もそういうものを痛感しているようで「今はあの時代とは全然違うから」と言う。だが一方で、時代を問わず普遍の定めがあるとも話すのだ。

 「当時は僕のレベルで一生懸命でしたけど、それだけじゃダメ。一生懸命は皆やる。仕事だから。一流になるには自分に足りないところに自分で気付き、それを探せるかどうか。どれだけ有望な若手だって、それを怠ると平凡になりますよ」

 広島で同じ釜のメシを食った金本もそうだが、前時代的な指導を受けた者だから前時代の是非が分かる。球宴ののち残り56試合…今と昔、その心を通わせる、長い旅路になる。

=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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