【競馬】ブルボン似?逃げに素質光る2歳アリンナ

 「ミホノブルボン?よく覚えてるねえ。まだ若かったでしょう?」。声の主は、92年の牡馬クラシックで2冠馬を手がけた安永司調教助手(栗東・松元厩舎)。忘れるわけがない。あの鮮やかな栗毛、そして坂路調教で鍛え上げられた鋼のような肉体を-。

 父マグニテュード、母の父シャレーという地味な血統。700万円という安価で取引された栗毛馬は、栗東・戸山為夫厩舎に入厩すると、スパルタとも言えるハードトレーニングで鍛え抜かれた。厳しい調教を耐え抜き、デビューから無傷の3連勝で朝日杯3歳S(現・朝日杯FS)を制覇。年が明けても快進撃は続き、皐月賞→ダービーを制して無敗の2冠馬に輝いた。最後の1冠・菊花賞こそ、生粋のステイヤー・ライスシャワーの2着に敗れて3冠制覇は逃したものの、短距離色の濃い血統から常に不安視された“距離の壁”を次々と打ち破った。その驚異的な身体能力はスパルタ調教の賜物と言えるだろう。

 92年。当時、私はホッカイドウ競馬で専門紙のトラックマンをしていた。夏のある日、先輩のツテで北海道早来の吉田牧場に連れて行ってもらったときのこと。幸運にも、2冠達成後に放牧中のブルボンを見学させてもらった。ひと目見て驚かされたのは、まるで鏡餅のように二段重ねになっているトモの筋肉。誰が見ても、並の馬とは明らかに違っていた。それは忘れようがない光景だった。

 あれから24年-。安永のG1参戦は06年NHKマイルC(ユウカージナル16着)のわずか1回のみだったが、11日に行われる阪神JF(阪神、芝1600メートル)で久々にチャンスが訪れた。ともに戦うパートナーの名はアリンナ(牝2歳)。小柄な牝馬の特徴を聞くと「かわいい」と言って微笑んだ。「攻め馬でも、前半にする分にはいいんだけど、後半に行くと、馬房のなかで“置いて行かれた感”があるのか、寂しがるんです。だから調教はいつも前半にやってます」。人間に例えるなら中学生の女の子。まだまだ多感な時期だ。

 新馬戦こそ2着に敗れたアリンナだが、未勝利-秋明菊賞をともに逃げ切り2連勝。スッとハナを奪い、直線で二枚腰を使って突き放す競馬スタイルは、どこかブルボンに似ている。「確かに、横綱相撲をするところは似ているかな。ブルボンは結構、引っかかって行くタイプだったけれど、アリンナは同じ逃げの戦法でも“前に行け”という感じじゃない。だから、控える形になっても問題はないと思いますよ」。

 “かわいい”だけではなく、能力も高い。「初めて乗ったときかな。本馬場を流したんだけど、馬なりで併走馬をちぎった。時計は普通でも、引っ張りきりの手応えでサーッとね。それでも、デビュー前の2歳馬のことだから、まだ信用まではしていなかったけど、前走の勝ちっぷりを見ると“これはちょっと違うかな”と感じてきた。展開とか、ソツなく回ってきたとか、そういう感じではなかったものね。前々で競馬ができるのは強味。自分で競馬を作れるのはいいよね」。

 10月にデビューし、短期間に3戦を消化。そろそろ疲労が気になるが「元気ですよ。今週(11月29日)の計量で、前走時と同じ422キロ。馬体減りもなく順調に来ていますからね」と仕上げ人は状態面に太鼓判を押す。

 千二、千四と距離を延ばし、今回はマイルに初挑戦。逃げてどこまで辛抱できるのか?想像力をかき立てられる点も、またブルボンに似ている。「前走の勝ちっぷりを見ると、マイルはこなせそうな感じはする。ここでいい競馬ができるようなら、来年のクラシックが楽しみになるね。オークス?それはまだまだ(笑い)。挑戦してみたい気持ちはあるけどね」。

 ファンタジーS(2着)を逃げ粘ったショーウェイなど、ハナを奪いたい面々は存在するが「逃げられるようなら自分で競馬をつくって欲しい」と安永は思い切りのいい競馬を希望する。新コンビを組むのは、今年の安田記念を伏兵ロゴタイプで逃げ切った田辺。一発の魅力を感じさせる人馬がどんな競馬を見せてくれるか、楽しみだ。(デイリースポーツ・松浦孝司)

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