【競馬】ダービー血統が織りなすドラマ

 競馬には血統が織りなすドラマがある。今年の皐月賞を制したディーマジェスティ(牡3歳、美浦・二ノ宮敬厩舎)。運命の歯車が狂っていれば、この世に生を受けていなかったかもしれない。

 さかのぼること23年。1頭の牝馬がアイルランドで生まれた。兄は91年英ダービーを後続に5馬身差をつけて圧勝したジェネラスで姉は01年英オークスを制したイマジンという良血馬。のちに日本へ輸入され、シンコウエルメスと名づけられ、美浦の藤沢和雄厩舎からデビューした。生涯成績はわずかに1戦のみ。この馬こそディーマジェスティの祖母になる。

 シンコウエルメスはデビュー戦で5着に敗退後、調教中に骨折するアクシデントに見舞われた。かなり難しい手術になることから、安楽死という選択肢も浮上したが、安田修オーナーを始め、藤沢和雄師ら関係者は血統を後世に残そうということになり手術に踏み切った。「あの時は無事に牧場へ返してあげたいという気持ちだけだった。手術が成功する確率は低かったけど、美浦の診療所の先生方がしっかりと対処してくれた」と師は当時を振り返る。そして手術は奇跡的に成功した。

 これこそがディーマジェスティの運命の分岐点。シンコウエルメスは左前第1指骨の複雑骨折だった。普通なら安楽死処分となる重度な症状。しかし、手術に踏み切ったことでディーマジェスティの道は開かれた。そうでなければ今年の皐月賞は違う馬が勝っていた。シンコウエルメスに携わったホースマンの熱い思いが今年の結果を導いたのだ。

 「シンコウエルメスも競走馬として大成させてあげたかった。しかし、それはかなわなくなってしまった。それならば、せめて繁殖として後世に血を残してやりたかった」とトレーナーはしみじみと語る。ちなみに、シンコウエルメスは手術後、併発症の危険があることから、3カ月もの長い期間を美浦トレセンで過ごした。その間の世話をしたのが師を始めとする厩舎のスタッフだ。「担当の厩務員さんが一生懸命にやってくれた」。競走馬能力を失った馬を介護したところで収入は得られない。それでも無事に牧場へ送り出してあげようとみんなが必死に看病をした。こうしてシンコウエルメスは繁殖牝馬となり、ディーマジェスティの母となるエルメスティアラを産んだ。

 “競馬にはドラマがある”。言い古された言葉で新鮮味はないかもしれないが、実際にドラマを目の当たりにすると熱いものがこみ上げてくる。ディーマジェスティも出走するダービーは29日に行われる。この日に新たなドラマが誕生するかもしれない。(デイリースポーツ・小林正明)

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