【野球】ロッテ涌井の熱投が呼んだ団結

 ロッテ・涌井秀章投手(29)が、6日の楽天戦(コボスタ宮城)で10回137球の熱投を実らせ、自身6年ぶり3度目の最多勝を手にした。CSファーストSでの登板を間近に控えた中で、個人記録を達成するため10イニングを投げたことに賛否両論あろうが、涌井のあの日の力投は、有無を言わせぬほどの凄みがあった。

 涌井に迷いはなかった。6日の試合、六回に2点を勝ち越され降板を決断したが、七回にすぐさま同点に追いつき、そのまま続投。「ここまで来たら、最後まで行こうと思った」。右腕の強い意志が、マウンドに向かわせた。試合は動かず、じわじわと増えていく球数。だが、そんな憂慮もよそに、七回以降、平然と無安打に抑え続けた。

 落合投手コーチは「選手にとってタイトルとは、ずっとついて回るもの。獲れるチャンスは、そんなにあるものではない。そのチャンスがあるのであれば、頑張りに報いてあげたい。涌井に、“復活した”という肩書きを、与えてあげたい」と話した。もちろんチームが最優先だが、エースの大車輪の働きを最も近くで見てきたからこそ、勲章を獲りに行くことを後押しした。

 中4日で先発を予定していたCSファーストS第2戦のことを考えれば、130球を超える球数を投げさせることは、よほどの決意がなければできない。落合投手コーチは「批判があるのも覚悟の上です。でも、もし投げずに、ワクが、もやもやしたままCSに臨むことになってしまったら、それが一番良くないと思った」と強い表情で振り返った。

 「最多勝は、先発投手にとっての栄冠」とかみ締めた涌井。特に彼にとって、3度目の最多勝は、意味のあるものだった。過去の最多勝獲得の最長ブランクは、2リーグ制以降では、東尾修(西武)、鈴木啓示(近鉄)の8年。涌井はそれに次ぐ6年だ。西武時代に07、09年と獲得しているが、その後、低迷期を味わい、1度は抑えに転向。だが、先発へのこだわりが捨てられずに、再び輝ける場所を求め、ロッテへFA移籍した。6年の時を経て、まさに復活を証明する勲章だった。

 チーム全体にも、涌井の最多勝獲得に対し、理解があった。一時は困難と思われたCS進出を実現させた、その原動力の1人は、後半戦で9勝3敗とフル回転したエースだった。援護なくとも、表情ひとつ変えずに黙々と腕を振り続けてきた背番号16を、野手陣も見てきた。

 個人タイトルという目標があったとはいえ、自らを、そして仲間を信じて勝利に挑み、それでいて淡々と抑え続ける姿は、チームの士気をおのずと高めた。延長十一回にようやく勝ち越した6得点に、全員の思いが凝縮されていたのではないだろうか。

 当然、CSへの影響は懸念されるが、涌井の最終戦での登板がチームにもたらしたものは、決してマイナスではないように思う。伊東監督の「最後にワクが勝って終われたのは、弾みになる」という言葉にあるように、エースが見せた、あの一点の曇りもない勝利への執念は、次なる戦いの舞台に向け、何よりの鼓舞となったに違いない。そう感じている。

(デイリースポーツ・福岡香奈)

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