楽天 たった一言が持つ重み

 たった一言、何かを語りかけるだけでいい。受け取る側は、話し手の意図以上に重みを感じて聞くことがある。そんなことが、取材していて何度かあったなと感じている。

 5月下旬、楽天・星野仙一監督(当時)が腰痛で離脱した。ヤクルト戦の試合前だ。神宮球場で、選手、関係者を全て集めて行われたミーティング。闘将は一通り状況を説明すると、痛々しい足取りで部屋を出ようとした。その時だという。

 「僕の気のせいかも知れません。でも、部屋を出る直前に、確かに僕の方を見て『頼んだぞ!』と言ったんです」

 則本昂大投手。「『えっ』と思いました。だけどうれしかった。勝手に思ってるだけかも知れませんけど」と笑う。だがその2日後、巨人戦で完封勝利。「あの一言は、間違いなく僕の力になった」と振り返った。

 「エース?エースは3年結果を出したら初めてエースや」が星野前監督の持論。昨年15勝、今季は14勝と結果は文句なかった右腕。だが、退任する最後までエースとは呼ばなかった。則本もそれに反発することなく、黙々と結果につなげる。これが星野さんの育て方でもあることを、右腕もわかっているのだ。

 楽天は、星野さんの辞任後、大久保監督が就任。9月中旬に辞任を表明した闘将。その時、大久保2軍監督の昇格が既定路線だったのに、結局発表に至るまでに約1カ月かかった。三木谷オーナーの決断が遅かったことが理由だ。

 監督発表が遅れ、コーチ陣はまだ固まっていない状況。最下位からの浮上を目指すためには、こんなところでモタモタしてはいけないはずだが、それが現状である。GM的立場で残留するとみられていた星野前監督にも、いまだに具体的オファーはなく、星野さん自身も不満を爆発させている。

 三木谷オーナーが強力な決断権を持つチーム。最終的に三木谷オーナーのゴーサインが出るまで、何も動けない。だから遅い。例年にも増して、今それを強く感じる。だが、かといって、この混乱の責任が全て三木谷オーナーにあるのか、と思ってしまうのだ。

 球団と当人に、確かなコミュニケーションができていたか。メジャー434本塁打のアンドリュー・ジョーンズ。日本が大好きで、チームが好きで、2年間、4番として試合に出続けた。来季の具体的な話もないまま、帰国。残留は微妙な状況だ。

 シーズン終盤、ジョーンズは周囲にこう話したという。「残留交渉とか、契約の話をしてくれと言ってるんじゃない。何か一言『お前が必要だ』とか、声をかけてほしかった」。オーナーではなく、今まで親しく接してきた球団関係者たちからの言葉を待っていた主砲。さみしそうに、日本を離れたそうだ。

 たった一言、何かを語りかけるだけでいい。ジョーンズも、星野さんも、そして同様の思いを抱える選手、関係者はもっといる。いま、それを見過ごしてしまうと、大変なことになる。

(デイリースポーツ・橋本雄一)

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