低迷するC大阪残留への切り札は…

 J1・C大阪が16位と再び降格圏に転落した。16日の第20節川崎戦(等々力)では、チーム5試合ぶりの得点となるMF南野の今季初ゴールなど4得点を奪ったが、大量5失点を喫し9試合未勝利となった。

 リーグ戦での5失点はJ2に降格した06年の第15節FC東京戦(1●5)以来8年ぶり。6月に就任したペッツァイオリ新監督はいまだリーグ戦での勝利がなく、前任のポポビッチ体制から数えると、直近16試合でわずか1勝という深刻な状況となっている。

 出口の見えないトンネルに迷い込んだC大阪。そんな中、射(さ)し込んだ一筋の光が、約1年9カ月ぶりの公式戦出場となったMF吉野峻光(25)だった。

 1‐4と3点ビハインドの後半開始から右MFとして途中出場した吉野は、豊富なアイデアと巧みな技術を随所に発揮。守備にも奔走するなどチームを活性化させた。

 2年近いブランクを感じさせないプレーに、敵地へ駆け付けたサポーターからは“吉野コール”が湧き上がった。試合後「疲れました」と照れたような笑みを浮かべた吉野の表情には、ようやくここまでたどり着いたという充実感が滲(にじ)んでいた。

 2度の悪夢を乗り越えた。プロ1年目の12年11月8日、練習試合で左膝前十字靱帯(じんたい)を断裂。全治7カ月の重傷だった。負傷が癒え、全体練習に合流したばかりの昨年7月27日、練習中に再び左膝前十字靱帯を断裂してしまう。今度は全治8カ月。長いリハビリを経た直後に襲った悲劇だった。

 失意の吉野をチームメートが支え続けた。昨年8月10日の第20節大宮戦(NACK)ではDF新井場の発案でベンチに吉野のユニホームが持ち込まれ、先制ゴールを挙げたFW柿谷がベンチに走り、背番号15のユニホームをスタンドに向けて掲げた。

 試合後には選手全員が吉野のユニホームを着てサポーターの前で記念撮影。8月17日の第21節清水戦(金鳥ス)では吉野本人も写真に収まり、「日本中の誰よりも厳しくリハビリを頑張ります」とホームのサポーターに誓った。

 吉野はJ2京都の下部組織から静岡学園高、国士舘大を経て12年にC大阪入り。クルピ元監督もその能力を高く評価していた。柿谷とはチーム内で唯一の同学年だったが、その柿谷もチームを去った。「曜一朗と一緒にやりたかった。でも合わないと思います。お互い感覚でやるから」。再び同じピッチでプレーすることはかなわず、吉野は少し寂しそうに笑った。

 気の遠くなるようなリハビリの日々を耐え抜いた。験を担いだのか、今季からスパイクの契約メーカーも変えた。7月28日のステップアップ・リーグ・G大阪戦に先発出場し25分間プレー。最初の靱帯断裂から627日ぶりの実戦復帰だった。

 そしてついに、吉野は公式戦のピッチに戻って来た。川崎戦前日に「準備はしてきた。チームが苦しい時なので、試合に出られたら何か貢献したい」と話していた通りのプレーを披露。ただ、チームに勝利をもたらすことはできず「内容どうこうではなく全員が死にもの狂いで戦って、みんなで勝ち点3を取って、いい方向に持っていきたい」とあらためて決意を語った。

 残留争いに巻き込まれたC大阪は元ドイツ代表FWカカウを補強。FWフォルランに続くビッグネームの獲得で、前線の競争は激しさを増す。それでも、吉野の復帰が最大の“補強”だったと振り返る日を期待せずにはいられない。プロ3年目の25歳。負傷で棒に振った日々は、必ず報われるはずだ。

(デイリースポーツ・山本直弘)

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