アマの大物・鍛治舎氏 高校采配に注目

 7月9日付のデイリースポーツ本紙で、高校野球監督就任の夢をかなえた、アマ野球界の大物・鍛治舎巧氏(熊本・秀岳館高校監督)を特集させてもらった。

 同氏の来歴については、著名でもあり、本紙と重複するので省くが、甲子園で活躍し、早大、松下電器(現パナソニック)の主力打者として2度、ドラフトで指名されながら、プロへは行かず、社会人や少年野球の指導者、高校野球解説など、常にアマ球界に身を置いてきた人だ。

 せっかくなので、本紙で書ききれなかった話を多少、紹介しておく。

 早大4年時には、プロ12球団のうち3球団のスカウトから、1位指名された。その年(1973年)は、作新学院の江川卓がいたにも関わらず、である。2年後、阪神2位指名も入団を拒否。

 鍛治舎氏の父親が体調を崩しており、一家の支えとなるだけの、安定的な社会的立場を周囲が望んだことも、プロ入りを思いとどまる理由の一つとなったそうだ。

 プレーヤーとしての能力に加え、周囲、社会を見渡す視野の広さも備えていた。これが、後の人生に生きる。

 指導者、解説者、そしてパナソニック社員として、そのすべてで結果を出し続けてきた。そうした歩みを経て、実現した高校野球の監督。鍛治舎氏は、秀岳館の生徒たちに、どんなことを望んでいるのだろう。

 少年野球のオール枚方ボーイズでは、全国制覇12度、世界一も2度、経験している。選手は中学生だ。特に試合では相当に、きめ細かな指示が必要かと思っていたら、その逆だという。

 「僕はイニングの合間の、円陣を大切にします」と鍛治舎氏。ただし、そこで監督として的確なアドバイスが必要、という意味ではない。「そんな時間はありませんから」。

 例えば、試合序盤。相手投手について「○○チームの××投手によく似ている。ただし速球は××投手より遅い。変化球は、××投手と比べてこんな感じだ」といった情報交換を選手内でやらせる。その上で「こうしたら攻略できる、という結論まで選手が出すんです。これができるチームは、高校でもなかなかない」と言う。

 数多くのデータと、それを照らし合わせる眼前の相手との差を見極める眼力、さらには自軍の特徴を理解した上で勝つための方策を選手自らが導き出す。円陣とは、そのためにあるもので、それができるチーム作りが監督の役割なのだ。

 こうした考え方が、就任3カ月で浸透し始めた。ベンチ入りのかなわなかった3年生が、事細かなデータ収集と整理を行うため、ネット裏には監督室兼データ整理室が新設された。彼らは「日によっては、真夜中までかかって、頑張ってくれてます」(鍛治舎氏)。

 もちろん、鍛治舎氏の望むレベルの円陣を実現するのは容易ではない。もしかすると、次の代以降になるかもしれない。

 それでも日本一、世界一を知り、昨年、アルゼンチンで開かれ東京開催を決めたIOC総会にも出席していたという鍛治舎氏が、世界の潮流を、熊本の高校から発信するようになれば、これは画期的だ。

 「東京、大阪ならジャージーで歩いていても、誰も気づかないんですが、大都会じゃないからこそ、服装には気を遣います」と、来るなりの知名度の高さに苦笑しつつも、熊本での高校野球生活は楽しくて仕方ない様子だった。

(デイリースポーツ・西下 純)

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