初星J1徳島救った「おっさん」ゴール

 開幕から9連敗を喫していたJ1徳島が、4月29日のリーグ第10節で甲府を1‐0で下し、待望の四国勢J1初勝利を挙げた。

 後半28分、歴史的な決勝ゴールを決めたのは、センターバックのDF橋内優也(26)だった。味方のシュートが相手DFに当たり、足元にこぼれた球をゴール右スミに蹴り込んだ。技ありのゴールに見えたが「狙いとは反対のコースに飛んだのがよかった」と橋内。たまたまボールが右足外側に当たり、相手GKの逆をついた形になったという。

 そんなゴールも、この男には似合っている。テクニックよりも闘志を前面に出して泥臭くプレーするタイプ。陽気な性格で、自他ともに認めるチームのムードメーカー。ファンとの交流イベントなどでは必ずマイクを握って会場を盛り上げ、ときに司会役も務めるなどチーム一の“しゃべり上手”だ。

 その風貌から、サポーターからは親しみを込めて「おっさん」と呼ばれる。「18歳でサンフレッチェ(広島)に入ったときから呼ばれています。若いのに“おっさん顔”で…。でも全然悪い気はしないですよ。そういうキャラでずっと応援してもらっていますから」。本人はあっけらかんとしたものだ。

 甲府戦の夜、「おっさん」の歴史的ゴールとヒーローインタビューは、全国ネットの主要ニュース番組で大きく報じられた。ご覧になった方も多いだろう。その明るい笑顔とトークは、出口の見えない連敗地獄の中でもチームを元気づけていた。

 座右の銘を聞くと、大まじめな顔で「謙虚」と「感謝」と答える。名門・東海大五高サッカー部時代の恩師である平清孝監督から繰り返し教えられた人生訓だ。「感謝があれば、謙虚な気持ちが生まれる。支えてくれる人たちのために、頑張らないといけない」。

 恩師の教えを実践した昨シーズン。春先から右太もも裏肉離れなど相次ぐ故障で長期離脱を余儀なくされたが、昇格争いが佳境に入った終盤戦で戦列復帰すると、気迫のこもった守備で何度もピンチを救い、悲願のJ1昇格に大きく貢献した。

 四国初のJ1クラブとして迎えた今季は良好なコンディションで開幕戦からピッチに立ったが、J2とJ1の力の差は想像以上だった。自らのミスが原因で失点したこともあった。陽気な男も、さすがに思い悩む時間が増えた。

 それだけに、ゴールの喜びは格別だ。一躍“時の人”となり「たくさん電話やメールをもらいました。卒業以来、連絡を取っていない小・中学校時代の友達からも連絡があって、びっくりしましたね」と、反響の大きさに驚きの様子だった。

 徳島の厳しい戦いはこれからも続くだろう。急に状況が好転するほどJ1は甘くない。ただ、あきらめるには早すぎる。「強い気持ちを持って、一歩一歩進んでいきたい」と橋内。開幕9連敗からの巻き返しへ、「おっさん」の一発がチームに計り知れない希望をもたらしたのは間違いない。

(デイリースポーツ・浜村博文)

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