「暗殺教室」大ヒットの秘密、羽住監督に訊く

「映画は商品」である事実と、漫画原作モノで重要なこと

2014年末から2015年にかけて劇場公開された漫画原作の実写映画のなかで、興行収入25億円を突破したのは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(32.5億円)と『映画 暗殺教室』(27.7 億円)のわずか2本だけ。昨今の日本映画のヒット条件のひとつが「漫画原作モノ」であることは明白だが、それでもここ数年、興行収入「25億円超え」が邦洋合わせて上位約20本しかクリアできていないことを考えると、漫画原作モノであってもかなりハードルが高い。

その点で『映画 暗殺教室』は、発行部数2100万部という人気原作を実写映画化し、きっちりとその数字を稼ぎ出した、まさに大ヒット作と言える。2016年3月25日には、続編となる『暗殺教室~卒業編~』が全国公開され、さらに高い興収が期待されている。そんな本作でもメガホンをとったのが、羽住英一郎監督である。

羽住監督は、『THE LAST MESSAGE 海猿』(80.4億円)に代表される海猿シリーズを手がけてきたヒットメーカー。現在までに漫画原作の実写化を数多く手掛けてきた羽住監督、「オリジナルストーリーよりも漫画原作ものの方が、(映画化の)企画が通りやすい。原作が売れていればいるほど、企画書を出すときにも理解してもらえる。大手のメジャー映画で漫画原作ものが多いのは、それがシンプルな理由のひとつです」と、日本における映画製作・配給の現状をまず語る。

アート系で作家性の強い映画は、もちろん見応えがある。しかし映画は、売れるか売れないかの世界でもある。商業系大作が映画ビジネスとして産業体系を構築しているからこそ、アート系作品もそのラインにのることができるのだ。羽住監督は作家性のある映画もちゃんと認めた上で、「映画は商品ですから、ちゃんと売るための『パッケージ作り』をやっていかなければなりません」と話す。特に重要になるのが、キャスティングだ。

主役の山田涼介、菅田将暉らが若手注目俳優が名を連ねる

「『この俳優は、原作のキャラクターのイメージに合っていない』など、漫画原作モノは賛否が巻き起こるのが常。しかし僕は、そういう意見はあまり気になりません。なぜなら、映画を作る上では、原作を知らない人のこともちゃんと頭に浮かべなければいけないから。原作ファンだけをターゲットにして作ると、映画としての可能性が広がりませんし、興行としてもしんどい。『暗殺教室』に関しては、原作を知らない人がタイトルから想像するハードで血みどろな作品なんじゃないかという誤ったイメージを払拭できるくらい、メジャー感のあるキャストにしなきゃダメだと思いました。そこで山田涼介君の名前が挙がったんです。彼は、本作の客層のメインとなる10代から20代前半に特に高い支持がありますから。そうやって、興行においてベストを尽くすことを考えて、(キャスティングを)進めていきます」

さらに。羽住監督はむしろ「(人気漫画を映画化する際は)原作ファンが映画から離れてしまうことを、まず想定している」とまで言い切る。

「実際はそうではないかも知れませんが、そういう気持ちでやっています。映画と漫画は表現として違うものですから。一方で大事にしているのが、原作が何を伝えようとしているのかというテーマや精神性の部分。『海猿』シリーズもそうなのですが、原作の何が良いのかきっちり分析した上で、映画・映像としての面白さを追求する。『海猿』は原作をそのままやってしまうと、女性は観に行きづらかったはず。だけど1作目ではカップル向けデートムービーとしてラブストーリーを念頭に置き、その後のシリーズではファミリー層まで広げられるよう内容を意識して作りました。原作のメッセージを見失わず、映画ならではの変化を加えたことで、爆発的なヒットに繋がったと思います。『暗殺教室』の場合、生徒たちが一人前の暗殺者になろうとするところは、立派な人間に成長する過程に置き換えられる。そうすると『暗殺』という行為にも話の筋が通っていく。未熟な生徒たちの成長劇というドラマツルギーは、ブレないようにしました」

「例えば、『暗殺教室』の原作では、殺せんせーが教室に入ってきて、生徒が『起立、礼』と挨拶をした後、一斉に武器を構えて殺せんせーに攻撃を仕掛ける場面から始まりますが、映画版は戦争映画でも始まるのかと思わせるオープニングになっています。あのシーンは、『これは漫画ではないですよ、実写映画ですよ』とイメージを植えつけるためにやりました。原作ファンには、『漫画とどう違うか、あら探しをしてやろう』という人もいますが(笑)、そもそも誰も観たことのない場面を導入することで、『実写映画』を印象付けさせる。しかしその後、再現度の高い殺せんせーのビジュアルを登場させ、原作ファンにもちゃんと納得してもらおうという構造にしています。」

『映画 暗殺教室』のヒットは、原作やその熱烈なファンとの関係性や距離感にヒントがあるのかも知れない。そして、羽住監督はこう続けた。

「それでもやはり、原作のファンの方々に映画を観ていただきたいです。漫画原作を実写化する上で、原作のファンを意識していない作り手は絶対にいない。もしそれを完全に無視して自分の世界で映画を作るのであれば、原作ものに手を出すのはやめた方が良い。どうすればヒットさせられるのかは当然、答えはありません。だけど確実に言えることは、原作のことを知る人、知らない人、どちらかひとつでも無視するのは、僕はプロの仕事として『ないな』と感じます」

取材・文/田辺ユウキ

(Lmaga.jp)

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