「メイショウ」馬主・松本好雄氏
2013年4月1日
「新馬を勝って、中1週でジュベナイルフィリーズに登録しましたよね。その時に調教師は“この馬いいところある”と思ったんだと感じるんですけど。レースは10着でしたが、0・8秒差。これはいいところあるんじゃないかなという気はしだしましたね」
◆メイショウマンボに新馬戦から騎乗していた飯田祐史(ゆうじ)騎手は、昨年12月6日に調教師試験に合格。今年2月末の引退まで時間はあったが、すでに年明けの戦いに向けて後任選びがスタートしていた。
「この馬だけは、調教師が次はユウジ以外でだれか乗せようと思ったみたいでね。ユウジが(桜花賞で)乗れないのは分かっていましたから。それで(武)幸四郎に、と」
◆前走は武幸が騎乗停止中のため代役の川田で勝利。本番は再び武幸が騎乗予定。
‐こぶし賞では4角で後方も、直線大外に持ち出して差し切った。
「勝ったあと“幸ちゃん冷や冷やしたで”って言ったら、余裕でしたよって言ってたね。あれだけ後方から外を回して、余裕ですよって言うから、この馬走るんやなと」
‐前走のフィリーズレビューでは、馬群をこじ開け抜け出して来た。
「こぶし賞で外を回して勝った時に“はじけたな、切れるな”と思ったんですけど、幸四郎は(代役騎乗の)川田に“ビューンと切れる脚はないから、早めに仕掛けていかないとダメだよ”とアドバイスを送っていたようですね。レース見てると、後方で、こらダメかなと思ったけど、加速がつくとすごかったね」
‐あの勝ち方を見ると、本番でも期待が高まります。
「身びいきですけど、上位の1頭かなと思いますね。でも、強い馬もたくさんいますから。大混戦じゃないですかね」
‐桜花賞に対しては、どのようなイメージを持っていますか。
「以前は出走しやすいG1だった。1勝馬でも抽選で出走できたり。最近は名牝と呼ばれたり、名血と言われる馬、特定のいい牧場、いい馬が粒ぞろいで出てくるようになって、我々には手が出ないレースになったかなと。桜花賞は無理やと思ってたんですけど」
‐昨年は息子さんの好隆さんが所有するメイショウスザンナが5着。メイショウ勢の桜花賞最高着順でした。
「流れが、こっちに来たんかな」
◆武豊騎乗でチューリップ賞を制したクロフネサプライズ、3連勝のクラウンロゼ、ディープインパクトの妹トーセンソレイユなど、有力馬が5指に余る。
「クロフネサプライズに、クラウンロゼも前走は強かった。ユタカのサプライズが1番人気かな」
‐最後の直線で武兄弟のたたき合い。幸四郎君がユタカ君の前でゴールすれば絵になりますね。
「夢のような話だね」
‐ライバルとの力関係というのは、レース前に大体分かるものですか。
「分かればねえ、馬券でもうかるんだろうけど。サムソンの時はドリームパスポートとの2頭で、いい思いもさせてもらいましたけど。冷静な立場でG1なりクラシックを見てると、相手関係も分かるんでしょうが、自分の馬を主体に見てるとなかなかね。下馬評通りの馬が相手かなとは思いますけど」
‐馬主になられて40年。現役で200頭ぐらい保有する大所帯です。ゆかりの血統が多いですよね。
「そういうふうになるんですよね。どうしても。僕らが馬を見ても分からないし、人とのかかわりを大事にして今まで生きて来ましたからね」
‐所有馬には高額馬が名を連ねているというわけではない。
「趣味の範囲でね。そういうふうでないと、ここまで続かないんじゃないかな。勝負にこだわったり、名を取りにいったりすると、どうしても良血馬だとか、いい牧場からだとかになってね。そうなると経済的にもきつくなるでしょう。あんまりそこに行くと、大変だし、おもしろみがなくなるんじゃないかと。これは僕個人の意見ですけど」
‐そういう方針だから長年続けられている。
「たとえば100頭買ってたのを10頭にするという方法を選べば、できるんでしょうけど。僕は結果として人とのかかわりが広く出来ていったんでね。この年になって、それで良かったんじゃないかと思ってます」
‐人とのつながりを大切にされているからこそのシーンもあったとうかがいます。
「メイショウサムソンで皐月賞を勝った時は、初めてのクラシックで涙が出てね、感激して。表彰式の時は冷静だったんですけど、終わると、関西から来た乗り役がみんなズラッと並んで拍手で迎えてくれて。それでまた涙が止まらんようになってね」
‐競馬場では優しい顔が印象的ですが、仕事場では違う顔つきになられる。
「本業では厳しい顔になる時が多いですよね」
‐調教師さんにはあまり口出しをしないようですが、仕事では。
「工場長とかに任せてはありますが、なかなか馬のようには任しきれない。自分の命、全員の命がかかってますから。馬の場合は自分だけが悲しんだり、泣いたりすればいいですけど」
‐上に立つ立場になると厳しい面もなければいけない。
「経済状況はまっすぐではないですから、常に波があって、それでも続けていって、伸ばしていかないといけない宿命がある。そんな悠長にやっとれない。命がけで、先行設備投資もしないといけない。人に後れを取ってはいけない。お客さんから仕事をもらって、それを納めさせてもらう。だから常にオンリーワン、ナンバーワンでなければいけない。競馬で言うと常にハナを切って、そうでないと生きていけない世界、人のマネごとではダメですから」
◆最後に再び競馬の話に戻って。
「こぶし賞を勝った時に、調教師さんが、実はオークスのクラシック登録してませんって。周りの連中はオークス行ったら面白いんじゃないかという下馬評でしたけど、登録料で私に気を使ったんじゃないかな。もし出られるようだったら、追加登録(200万円)払ってね。その前に、桜花賞では幸四郎君が期待に応えてくれるでしょう!!」
松本 好雄(まつもと・よしお)1938年1月6日生まれ、75歳。兵庫県明石市出身。「株式会社きしろ」の代表取締役会長で、製造する大型船舶用エンジンのクランクシャフトは世界シェア45%を占める。また現在、約200頭の現役馬を所有する大馬主で、「“明”石の“松”本」から冠名はメイショウ。これまでメイショウドトウ、メイショウボーラー、メイショウサムソンでG16勝。日本中央競馬会運営審議会委員、明石商工会議所副会長などを務める。
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