「メイショウ」馬主・松本好雄氏

 3月10日、フィリーズレビューを制し、メイショウマンボや関係者と写真に納まる松本好雄オーナー(右から4人目)=阪神競馬場
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 4月7日に阪神競馬場で行われる桜花賞・G1(芝1600メートル)へ有力馬のメイショウマンボを送り込むのが、松本好雄オーナー(75)だ。現役馬約200頭を所有する“メイショウさん”。G1は01年・宝塚記念をメイショウドトウ、05年・フェブラリーSをメイショウボーラー、06年・皐月賞、ダービー、07年・春秋天皇賞をメイショウサムソンで制したが、これまで牝馬G1には縁がなかった。馬主になって40年。ついに悲願達成の時が来た。

   ◇  ◇

 ‐桜花賞が近づいてきました。メイショウマンボには、オーナー初の牝馬G1制覇がかかっています。

 「はじめから桜花賞に出るとか、そういう大きな期待があったわけではないんです。この子の場合はおばあさんがメイショウアヤメ、桜花賞7着(98年)でね。その子供は期待したんだけど全然走らなくて、そのアヤメの子供のモモカにスズカマンボをつけて生まれたのがこの子なんですけど、まさかここまで走るとは思わなかった」

 ◆メイショウマンボは父スズカマンボ、母メイショウモモカ。垂涎(ぜん)の良血馬とは言えない血統だが、昨年11月25日の新馬戦を快勝。阪神JF10着を挟み、年明けは紅梅Sで2着のあと、こぶし賞、フィリーズレビューを連勝。桜花賞の有力候補に躍り出た。

 ‐いつごろから、大きなところが狙えるかも、と思われましたか。v

 「新馬を勝って、中1週でジュベナイルフィリーズに登録しましたよね。その時に調教師は“この馬いいところある”と思ったんだと感じるんですけど。レースは10着でしたが、0・8秒差。これはいいところあるんじゃないかなという気はしだしましたね」

 ◆メイショウマンボに新馬戦から騎乗していた飯田祐史(ゆうじ)騎手は、昨年12月6日に調教師試験に合格。今年2月末の引退まで時間はあったが、すでに年明けの戦いに向けて後任選びがスタートしていた。

 「この馬だけは、調教師が次はユウジ以外でだれか乗せようと思ったみたいでね。ユウジが(桜花賞で)乗れないのは分かっていましたから。それで(武)幸四郎に、と」

 ◆前走は武幸が騎乗停止中のため代役の川田で勝利。本番は再び武幸が騎乗予定。

 ‐こぶし賞では4角で後方も、直線大外に持ち出して差し切った。

 「勝ったあと“幸ちゃん冷や冷やしたで”って言ったら、余裕でしたよって言ってたね。あれだけ後方から外を回して、余裕ですよって言うから、この馬走るんやなと」

 ‐前走のフィリーズレビューでは、馬群をこじ開け抜け出して来た。

 「こぶし賞で外を回して勝った時に“はじけたな、切れるな”と思ったんですけど、幸四郎は(代役騎乗の)川田に“ビューンと切れる脚はないから、早めに仕掛けていかないとダメだよ”とアドバイスを送っていたようですね。レース見てると、後方で、こらダメかなと思ったけど、加速がつくとすごかったね」

 ‐あの勝ち方を見ると、本番でも期待が高まります。

 「身びいきですけど、上位の1頭かなと思いますね。でも、強い馬もたくさんいますから。大混戦じゃないですかね」

 ‐桜花賞に対しては、どのようなイメージを持っていますか。

 「以前は出走しやすいG1だった。1勝馬でも抽選で出走できたり。最近は名牝と呼ばれたり、名血と言われる馬、特定のいい牧場、いい馬が粒ぞろいで出てくるようになって、我々には手が出ないレースになったかなと。桜花賞は無理やと思ってたんですけど」

 ‐昨年は息子さんの好隆さんが所有するメイショウスザンナが5着。メイショウ勢の桜花賞最高着順でした。

 「流れが、こっちに来たんかな」

 ◆武豊騎乗でチューリップ賞を制したクロフネサプライズ、3連勝のクラウンロゼ、ディープインパクトの妹トーセンソレイユなど、有力馬が5指に余る。

 「クロフネサプライズに、クラウンロゼも前走は強かった。ユタカのサプライズが1番人気かな」

 ‐最後の直線で武兄弟のたたき合い。幸四郎君がユタカ君の前でゴールすれば絵になりますね。

 「夢のような話だね」

 ‐ライバルとの力関係というのは、レース前に大体分かるものですか。

 「分かればねえ、馬券でもうかるんだろうけど。サムソンの時はドリームパスポートとの2頭で、いい思いもさせてもらいましたけど。冷静な立場でG1なりクラシックを見てると、相手関係も分かるんでしょうが、自分の馬を主体に見てるとなかなかね。下馬評通りの馬が相手かなとは思いますけど」

 ‐馬主になられて40年。現役で200頭ぐらい保有する大所帯です。ゆかりの血統が多いですよね。

 「そういうふうになるんですよね。どうしても。僕らが馬を見ても分からないし、人とのかかわりを大事にして今まで生きて来ましたからね」

 ‐所有馬には高額馬が名を連ねているというわけではない。

 「趣味の範囲でね。そういうふうでないと、ここまで続かないんじゃないかな。勝負にこだわったり、名を取りにいったりすると、どうしても良血馬だとか、いい牧場からだとかになってね。そうなると経済的にもきつくなるでしょう。あんまりそこに行くと、大変だし、おもしろみがなくなるんじゃないかと。これは僕個人の意見ですけど」

 ‐そういう方針だから長年続けられている。

 「たとえば100頭買ってたのを10頭にするという方法を選べば、できるんでしょうけど。僕は結果として人とのかかわりが広く出来ていったんでね。この年になって、それで良かったんじゃないかと思ってます」

 ‐人とのつながりを大切にされているからこそのシーンもあったとうかがいます。

 「メイショウサムソンで皐月賞を勝った時は、初めてのクラシックで涙が出てね、感激して。表彰式の時は冷静だったんですけど、終わると、関西から来た乗り役がみんなズラッと並んで拍手で迎えてくれて。それでまた涙が止まらんようになってね」

 ‐競馬場では優しい顔が印象的ですが、仕事場では違う顔つきになられる。

 「本業では厳しい顔になる時が多いですよね」

 ‐調教師さんにはあまり口出しをしないようですが、仕事では。

 「工場長とかに任せてはありますが、なかなか馬のようには任しきれない。自分の命、全員の命がかかってますから。馬の場合は自分だけが悲しんだり、泣いたりすればいいですけど」

 ‐上に立つ立場になると厳しい面もなければいけない。

 「経済状況はまっすぐではないですから、常に波があって、それでも続けていって、伸ばしていかないといけない宿命がある。そんな悠長にやっとれない。命がけで、先行設備投資もしないといけない。人に後れを取ってはいけない。お客さんから仕事をもらって、それを納めさせてもらう。だから常にオンリーワン、ナンバーワンでなければいけない。競馬で言うと常にハナを切って、そうでないと生きていけない世界、人のマネごとではダメですから」

 ◆最後に再び競馬の話に戻って。

 「こぶし賞を勝った時に、調教師さんが、実はオークスのクラシック登録してませんって。周りの連中はオークス行ったら面白いんじゃないかという下馬評でしたけど、登録料で私に気を使ったんじゃないかな。もし出られるようだったら、追加登録(200万円)払ってね。その前に、桜花賞では幸四郎君が期待に応えてくれるでしょう!!」

 松本 好雄(まつもと・よしお)1938年1月6日生まれ、75歳。兵庫県明石市出身。「株式会社きしろ」の代表取締役会長で、製造する大型船舶用エンジンのクランクシャフトは世界シェア45%を占める。また現在、約200頭の現役馬を所有する大馬主で、「“明”石の“松”本」から冠名はメイショウ。これまでメイショウドトウ、メイショウボーラー、メイショウサムソンでG16勝。日本中央競馬会運営審議会委員、明石商工会議所副会長などを務める。

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