市川右近まさかの配役「高時」初挑戦中

新歌舞伎十八番の内「高時」で、主人公北条高時に扮する市川右近=京都南座
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 歌舞伎俳優・市川右近(49)が、京都南座で上演中の「五月花形歌舞伎」(27日千秋楽)で、新歌舞伎十八番のひとつ「高時」の主人公北条高時に初挑戦している。演目は市川宗家(成田屋)のお家芸で、澤瀉屋の右近は“まさかの配役”と驚きながらも、歌舞伎界に新風を吹き込んできた師匠・市川猿翁(73)(三代目猿之助)から学んだ開拓魂を発揮。演目「鎌髭」を約240年ぶりに復活させた市川海老蔵(35)とともに5月の京都で躍動している。

 ◆初役「高時」

 師匠の猿翁も縁がなかった高時役を務めることが決まったのは今年3月になってからだった。

 「えーっ、でしたね。澤瀉屋では、師匠猿翁のお父様(三代目段四郎)や、おじい様(二代目猿之助)が、どうやら若い頃に演じておられるんですが、師匠は縁がなく、僕は一生回ってこないと思っていましたから」

 「高時」は明治時代に、海外から入ってきた演劇に対抗するため、九代目市川團十郎が新しい時代に合った歌舞伎作りを目指した演劇改良運動の中で作りあげた活歴作品。

 「その意味では、お役が回ってきたのも、澤瀉屋一門に演劇改良のにおいがあるからなのかなと。僕らはスーパー歌舞伎をやったり、全く新しい歌舞伎を作る学校におるわけですよ。まさしく演劇改良運動に参加してるようなもんで、あらゆる実験を師匠とともに、あるいは実験台になってきましたからね。ですからまた、実験的に深めてみようかなと思っているんです」

 ◆澤瀉屋の精神

 演じるのは暴君と伝えられる鎌倉幕府の執権北条高時。作品では、悪政を敷き、犬を偏愛し、田楽舞にうつつを抜かす高時が、田楽法師に化けた天狗にもてあそばれる。そんな役柄に、右近は大胆な解釈も入れる。

 「役作りは諸先輩のVTRをひも解くしかないんですが、おもしろいのは解釈がひと色じゃないこと。演じる人が、どういう人生を送ってきたかでも変わってきますしね。僕が思うに、実は(高時は)ボンボンで結果が出ず、自分でも政治をどないしてええんか分からなくなっていたんとちがうかと。大人になりきれてなくて、案外、人はいいのかも。暴君だけでは救いがなくなるし、そんなほほ笑ましい部分もあっていいのかなと。自分なりにいろいろ解釈して、皆さんに見ていただくうちに息づいてくると思います」

 ◆ギラつく海老蔵

 初日前の今月2日に行われた舞台げいこには、6年前に「高時」を演じた海老蔵も駆けつけたという。

 「別の演目で大役を務めてらっしゃる中、朝から見に来て、芝居の解釈とかをご指導くださったんですよ。『高時』はご自分の家の作品でもありますし、この芝居への力の入り方や、これから市川宗家を、という海老蔵さんの気持ちが伝わってきましたね」

 今年2月に父・十二代目市川團十郎さんを亡くし、市川宗家をしょって立つことになった海老蔵の姿に、右近も感じるものがあったという。

 「僕も、昨年に團十郎さんとご一緒させていただきましたし、さみしくもあり、またふっと現れはるような気さえします。もちろん、海老蔵さんの中でも生き続けてはるでしょうし。海老蔵さん、ギラついてますね。バイタリティーある方とご一緒できて、僕も燃えてますよ」

 團十郎さんが昨年12月、最後に立った南座の舞台で、市川宗家のお家芸が、連日喝さいを起こしている。

 「海老蔵さんを見ていると、昔の若かったころの師匠を思い出しますね。タイプは違いますが、うちの師匠もギラギラしてましたからね。燃えてましたからね」

 ◆猿翁の筆頭弟子

 猿翁は、今年1月下旬に肺炎を患って入院し、3月末に東京・歌舞伎座の開場式には姿をみせたが、その後も療養生活が続いているという。

 「まだ月に1度、検査入院などがありますが、体重も戻り始めてます。6月の博多座公演にはご出演の予定ですし、体力を戻されて是非出ていただきたいです」。

 師匠の復帰を待ち望みながら熱演は続く。2010年に誕生した長男も3歳になった。息子の話になると、目尻がさがる。

 「歌舞伎をやってほしいと思いますね。今回も舞台稽古やったら見せられると思って初日前に家内に連れてこさして、後ろのほうで見させてたんです。そしらパパ、パパと言い出したらしくて。気が付いたら、海老蔵さんが4列目あたりで膝の上に乗せて、見させてくださってました(笑)」

 11歳の時から猿翁に師事する筆頭弟子。今年50歳を迎える。息子に歌舞伎役者になってほしいという願いにも理由がある。

 「師匠からは、子供のころからたくさんのことを教えていただき、それを未来に伝えていくことが一生かけての使命であり、夢でもあるんです。その作業が、より明確に実現し始めましたね。昨年襲名された、中車さん(香川照之)にも、團子さんにも、おこがましいですが、師匠から厳しく教わった役のことをお伝えできるし、猿之助さんにも裏の段取りなんかをお伝えできると思います。息子がやってくれるなら、なおさらです。役者に完全はないので、今後も自分も学びながら。少しだけ先を歩く学生として、努めさせていただきたいですね」。

 ◇

 『五月花形歌舞伎』は夜の部では、夜の部では『伊達の十役』で、海老蔵が仁木弾正役をはじめ1人10役の早替わりを演じ、右近が八汐役で共演している。

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