天才“ひねり王子”白井健三の秘密とは

 体操男子代表の白井健三
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 19歳にしてすでに自身の名『シライ』が付く技を4つも持つ、体操男子代表の白井健三(日体大)。初出場となるリオデジャネイロ五輪でも床運動で金メダル最有力候補に挙げられる“ひねり王子”は、なぜこれほどまで高難度な技を生み出していけるのか。関係者の証言から、その秘密を探った。

(1)父が驚いた観察力と応用力 

 白井の父・勝晃さん(56)は、三男・健三に驚かされたことが、これまで11回あるという。中学2年生の時、“絶対王者”内村航平が世界選手権で決めた床でG難度の大技リ・ジョンソンを見て、「僕もできる」とトランポリンでわずか練習10分で成功させたのは有名な話。幼少期からその観察力、そしてそれを自らの体で表現する応用能力はずぬけていた。

 勝晃さんは笑いながら振り返る。「実はダンサーにスカウトされたことがあるんですよ」。勝晃さんが運営する鶴見ジュニア体操クラブでは、週に1回、演技力・表現力が必要な女子選手のために、プロの先生によるダンスレッスンを取り入れていた。女子用のレッスンのため、当然、当時小学1年生の健三少年は輪に加われない。

 しかし、いつしか女の子のレッスン終了後、誰もいなくなった体育館で、鏡の前で踊る健三少年の姿があった。練習を横目で見ながら、約20人の振り付けをすべて完ぺきにマスターしたのだった。ある日、ダンスの先生がその姿を見て驚愕(きょうがく)し、勝晃さんに言った。「体操は辞めて、ダンサーにした方がいい。私に預けて欲しい」-。もし当時、勝晃さんがうなずいていたら、究極のアクロバットダンサーが誕生していたかもしれない。

 今年の正月に家族で行った沖縄旅行でも、久々に驚かされたことがあったという。両親と3兄弟全員でゴルフをすることになり、コースに出る前に、打ちっぱなしに出掛けた。初めてクラブを握った健三だったが、ゴルフ経験のある父や長男・勝太郎のスイングを見よう見まねで打ち始めると、わずか30分で真っすぐに球が飛ぶようになった。最初はウエッジから始め、初心者には扱いの難しいミドルアイアンまで手の内に-。「やっぱり天才肌だなと思った」と、勝晃さん。たぐいまれな感性が、白井の体操の根底を支えている。

(2)探求心、挑戦心      

 体操に対する貪欲なまでの探求心、挑戦心が新たな技の開発へとかき立てる。日体大の練習に参加するようになった白井の姿を見て、内村も指導した畠田好章監督は舌を巻いた。「やりたいことだけじゃなく、6種目きっちり全部やる。本番に強い子があれだけコツコツやれば、失敗しない。内村でもこの時期、ああいう練習はしてなかった」。地道に練習できる能力もまた才能。新技はこうした日々の練習の中のひらめきから生まれる。

 「技に自分の名前が付くことにこだわりはない」と話す白井。ただ、“攻め”の姿勢の必要性を痛感させられた大会がある。13年に17歳で床の世界王者となり、連覇が懸かった14年世界選手権。前年と同じ構成で臨んだが、ミスもあり2位に終わった。「(構成が)同じでも勝てると思った自分がいた。やっぱり自分は攻めていかないと」。15年は難度を上げた構成で王座を奪還。同年末には、床では男子初の最高難度H難度に認定されたシライ3も成功させた。

 果敢に新技を取り入れていく白井に、内村はこう伝えている。「お前にしかできないことなんだからどんどんやれ」-。内村自身は1つ1つの技の完成度を極限まで追求するタイプだが「健三は今までにいなかった選手。もう健三を目指していく選手もいるし、僕を目指す選手もいる。いろんなやり方があっていい。健三がこれからもパイオニアとしてやってくれれば、日本のレベルが上がっていく」と白井の姿に新たな可能性を感じている。

(3)“ひねり王子”のひねりの秘密

 白井の技を語る上で外せない要素が、代名詞となった「ひねり」だ。日本体操協会のマルチサポート委員会研究部副部長も務め、運動力学を専門とする金沢大の山田哲准教授は、白井のひねりの特長について「仕掛けが早い」と分析する。

 同じくひねり技を得意とする内村の床での後方伸身宙返り3回ひねりと、白井の4回ひねりを比較すると、意外な事実が分かった。空中にいる時間(約1・1秒)と、高さ(重心の最高到達点2メートル28~29)はほぼ同じ。瞬間的なひねりのスピードでいえば、内村の最高値が1500度/秒なのに対し、白井は1200~1300度/秒と、白井の方がやや遅い。ただ、内村が一度上体を反らすことでひねりを生み出しているのに対し、白井は素早くひねりやすい、体が真っすぐの姿勢を作り、長くその姿勢を維持することでひねりを稼いでいるという。

 山田准教授はシライのさらなる可能性にも言及した。すでに練習ではさらに半回ひねった4回半ひねりに成功しているが「もう少し高さを出すことと(ひねりを)締めることができれば、5回ひねりもやれるんじゃないかと思います」。将来的に国際大会で成功させれば、4回半ひねりはシライ4、5回ひねりはシライ5に-。そんな期待すら抱かせるポテンシャルを、白井はいまだに秘めている。

 初出場となるリオデジャネイロ五輪では、内村らとともに04年アテネ五輪以来の金メダル奪還に挑み、種目別床では断トツの優勝候補に挙げられる。「自分が世界を引っ張るつもりでやっている」。待ちに待った五輪デビュー。シライの躍動が日本にゴールドラッシュをもたらす。

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