最悪想定のスパーリング

 【5月8日】

 井上尚弥のスパーリングは本番で拳を交える相手によって全く異なると聞いたことがある。対戦相手をリアルにイメージしながら調整するため、そうなるのは当然なのかもしれないが…。

 取材の限り、希代のモンスターは対戦相手をイメージするとき、盛り気味に評価するという。これくらい強い。いや、もっともっと強いはずだ…そんな感じだろうか。あれだけの無双ボクサーでさえ、マッチアップするファイターの想定を最上限に置いて準備するのだから、そりゃ強い。

 先ごろ防衛した世界戦でルイス・ネリからプロ初ダウンも喫したが、井上は「全て想定内。一つ挙げるとすればもっとパワーがあるのかな…だった」と振り返った。ダウンを喫した後、冷静に対応したシーンを問われると…

 「しっかり8カウントまで膝をついて休むっていう。その数秒が大事だと思うので。ダウンしてすぐ立ってしまうと足のふらつきとか残ってしまう。本当にそういうシーンが訪れたら…というのを日頃から考えるようにしているので、それが咄嗟に出たと思う」

 最悪の想定?

 マイナス思考?

 それが王者の準備…

 どこかで聞いたことがある。

 勝つ為に常に「最悪」の展開を想定し、「完璧な準備」をする。マイナス思考でプラスの結果を引き出す-岡田彰布のマネジメントである。

 新井カープとの第2ラウンド、その想定はどうだったか。指揮官が信頼を寄せる大竹耕太郎が粘った夜だ。

 大竹にとってカープは昨季6勝負けなし。防御率0・57のお得意様だが、打線の援護に恵まれなかった。

 6回4安打。失点は中村健人に浴びたソロ1発のみ。4勝目はお預けとなったけれど、それこそ僕は大竹の準備段階のイメトレに関心がある。

 「自分の投球をして、それに対して相手がどう攻めてくるか。どう来られても対応できるようにしたい」

 登板前に彼はそう語っていた。

 いつも投手の「準備」には興味が尽きないので、今季のローテーションメンバーの「ブルペンと試合」の相関をチーム内で取材してみた。

 伊藤将司はブルペンで悪くてもゲームで修正できる投手。ブルペンがイマイチの日は試合でも苦しむことがあるが、それでも何とか試合を作る。村上頌樹もブルペンで調子がそれほど良くなくても本番で修正できるタイプ。青柳晃洋、才木浩人、西勇輝は概してブルペン通り-。

 では、大竹耕太郎はどうか。

 元来ブルペン投球を見ても調子が分かりづらく、試合にならないと分からない。そんなふうに聞いた。

 対戦相手をリアルにイメージして準備すれば、試合によってスパーリングの内容は全く異なる。つまり、分かりづらい-そういうことかもしれない。

 被弾した中村健人は23年1軍出場なし。僕の勝手な想像だが、直前のイメージが難しい相手だったか。いや、もちろん大竹がそんな弁明をするわけもないのだが…。=敬称略=

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