東カレに登場する超一流
【9月26日】
素材は決まって「超一流」にこだわる。そんな鮨を食べたいなら横浜へ。僕もその一人だけど、今回も試合後に暖簾をくぐり、極上の「にぎりとつまみ」を堪能させてもらった。
「なか條」。界隈でその名を知らない食通はいない。とさえいわれる屈指の名店が住吉町、その細い路地裏にある。値段も超一流だから足繁く通うのはなかなか…でも、だからこそ大切なときに高い敷居をまたぎたくなる。
客層もステージが高い。芸能界も超一流、野球界では原辰徳や工藤公康…タイガースでは金本知憲もそのネタを愛してやまない一人だ。冒頭、エラそうに書いたが、何を隠そう20余年前、アニキに誘ってもらわなければ、僕がここの味を知ることはまずなかった。
「豊洲で最高峰のネタ」にこだわる大将、中條清隆は職人肌を絵に描いたような男である。金本が自らの野球殿堂入りパーティーに招待するくらい大切にする人であり、僕も随分長いことお世話になっている。
「このあと飲みにいこうか」。暖簾をおろした中條に誘われる深夜の会も癒やしのひとつ…しかし、この人の一流たる所以は線引きを忘れないこと。翌早朝に豊洲なら夜更かしはしない。匠の技は克己からはじまるのだ。
そういえば金本と会ったとき、残念がっていた。背番号6のユニホームを脱いで以降、めっきり横浜へ行く機会が減ったそうで…。「大将によろしく言っておいて」。遠ざかる「なか條」が恋しそうだった。
さて、プロ野球界に疎い中條もさすがに気になる様子で聞いてきた。
「阪神、いつ優勝しそうなの?」
雨の横浜で優勝マジックが4まで減った。このゲームをモノにした立役者を眺めれば、アニキも感無量だろう。 そう…。10年前に金本が掲げた「素材ドラフト」の象徴がふたり、投打の柱として連覇へ向け堂々とチームをけん引する。16年ドラフトの1位、大山悠輔が1発を含む4安打4打点。同年3位の才木浩人が粘り腰で3年連続の2ケタ勝利を飾り、雨よけの黄色い花咲くハマのスタンドを沸かせた。
一見華やかな実績よりも、超一流に化けそうな素材を見込んだ金本は、甲子園にも縁の無かった大山と才木の潜在性を10年前から高く評価していた。
口癖は「あいつら、見ててみ」。
「なか條」でも言っていた。堅物の大将もその慧眼にはいつも敬意を抱き、金本が連れてきた選手、仲間の顔だけは今もよく覚えている。古くはその一人が藤川球児だったことも…。
それにしても、ここ横浜で無類の強さを誇る大山には何かご馳走したくなる。よし、そのときが来れば貯金をくずして誘ってみようか。豊洲最高峰の素材に頬が緩む姿が目に浮かぶ。
今月号の「東京カレンダー」に「なか條」が紹介されている。通称「東カレ」といえば首都圏の高所得者層対象の情報誌だが、なぜか掲載される大将の写真が小さ過ぎる。聞けば、そのように要望したという。理由は「目立ちたくないから」。一流は控えめ。大山悠輔と気が合いそうだ。=敬称略=
