球児が言うおもしろい仕事
【9月17日】
連敗がとまって一番うれしかったのは、藤川球児が笑顔だったこと…かもしれない。僕は試合後の監督会見には出なかった。だから、その場でどんな面持ちだったか分からない。
球児の笑顔を見たのは、クラブハウスへ続く通路で木浪聖也をサシで取材していたときだ。そこに通りかかった虎の将は白い歯を見せ、穏やかな笑みをこちらへ向けていた。
試合後に限れば、少なくとも僕は球児のそんな面持ちを見たことがない。
ナイスプレー、木浪…
そう言いたげに映った。
実は、試合前からリーダーの佇まいは決して重苦しいものではなかった。
一塁側のカメラマン席で虎番キャップ田中政行とふたりで話し込んでいると、不意に指揮官から声が掛かった。 僕らに笑みを向けながら。
球児「なあ、田中くん…。おもしろい仕事やろ?」
田中「はい…。本当に、監督というのは大変な職業だと感じています」
球児「ねぇ?風さん、おもしろい仕事でしょ?」
吉田「たしかに…」
球児「テンション、上げていかないとね…」
誰にとって、どの仕事が…。主述はなかった。でも、田中も僕も虎将が言わんとすることは何となく分かった。 指揮官がその場を去ったあと、傍らでバント練習に励んでいた伏見寅威は「いま、監督は何と?」。滅多に見ない情景が飲み込めない様子だった。
球児のいう「おもしろい」の意味合いは「わっはは…」と笑うそれではもちろんない。負けが込めば、これでもかとネガティブな風にのみこまれるのが阪神界隈の常である。優勝を争う秋に7連敗もすれば、そりゃSNSはえらいことになる。スマホを開けば罵詈雑言の渦。面識のないプロ野球OBからの辛辣な声も溢れる。論調が激しく上下動するネットメディアにはなぜか文責の署名がない。これほどまでに厳しい矛先が…犯罪者でもないのに。こんなシゴト、世の中で類を見ない。
あくまで僕の想像だけど、球児はそれらすべてをひっくるめて「おもしろい」と言ったのではなかろうか。
連敗を止めるべく手を打った夜だ。1軍復帰即スタメンの木浪聖也がカンフル剤になれるか。そんな視点で眺めたゲームは、いきなり「おっ」というプレーがあった。初回2死、中村奨成の痛烈な打球がショートへ飛んだ。嫌なバウンド…そう思ったら木浪はカラダでこれを収め、身を起こして一塁へ。ファーストプレーで波に乗った。
木浪本人に聞けば「初回に飛んでこいと思っていた」という。ショートへ計7度の打球は嫌な回転もあった。ダイビングもあった。快音こそ響かなかったが堅守でいい波動をつくった。
「ファームでゲームに出るということを、しっかり生かしてきてくれたと思います。雰囲気も良くなりますね」
打線が活気づいたゲーム。球児は木浪がもたらした効果を会見でそんなふうに称えたそうだ。ソフトバンクがパを制した夜、挑戦者の虎にいい風が吹いてきた。=敬称略=
