沖永良部島で語る「選択」
【1月22日】
どっぷり日が暮れた和泊町を歩けば灯りのついた暖簾はわずかだ。さざなみの調べが心地いい船着き場で夕飯にありつく。数多メニューの中、かつ丼と天ぷらで迷い、ここは山海の幸を…
これがうまかった。お世辞抜きで。でも、ちょっと後悔。だって、おかみさんがこう言うのだから。「近本選手はかつ丼を食べましたよ」。先に聞いておけば…。確かに隣席の男女がほお張るとろり卵にそそられる。勝つ丼?もう勝負は始まっているのか。
人生は選択の連続だ。食事のたびにシェークスピアの名言を掘り起こせば「大袈裟な…」と笑われそうだけど、取材歴30年目にしてまた近本光司から大切なことを教わった気がした。
かつ丼の話…ではない。
希代のスラッガーは21年から奄美群島の離島で自主トレに励んできた。先日パレードを催したのが島の東部、和泊町(わどまりちょう)の商店街。英雄が凱旋すれば「お帰り」。とりわけ野球少年少女は大きな瞳を輝かせる。
いつか近本選手のように…。
昨年に続き、沖永良部島にお邪魔した。遠路来島しなくとも2月まで待てばキャンプで会える。じゃ、なぜこの島で触れておきたいか。一番の理由は「仮面を外した近本」を見られるから…。今すぐ書かないまでも、ここで見る素顔の近本は何物にも代え難い。そう感じる。今年も来て良かった。
練習を終えた夕刻、天然芝のフィールドで輪になって中学校の野球部員と交流する姿があった。「話す内容もテーマも決めてないからね」。夕陽が垂れる巻積雲の下、そう語りかけたフリートーク。子どもたち、また、傍らで耳を傾けるお父さん、お母さんが真顔でうなずいたのはこんなくだりだ。
「いまの時代、いろんな情報があるよね。SNSとかYouTubeとか野球の動画を見ていても、いろんな情報がいっぱい出てくる。その情報はこの中の1人にとっては正解で、めちゃめちゃ合うかもしれない。でも、ほかの皆にとってそれは合わない…間違っているかもしれない。そういう時代だから、自分の感覚とか、自分が信頼している人に教えて貰うというのが僕の中では一番大事だと思っています」
これは刺さる。人生、そして野球も「選択の連続」だけど、昨今の情報量の夥しさは筆者が育った昭和時代の比じゃない。中高生、そして、プロ野球においても本質はここに在る。インフルエンサーら数多情報への傾注が過ぎて悩む若い選手がいれば…いや、筆者の余計な節介は要らない。
近本が語りかけるのは島の子どもたち。バリアーを張らないスター選手から「選択の心得」を聞けるのは幸せ。素顔の交流を終えた近本は言った。
「関西にいればどうしても演じないといけないし、自分を守るためにそういう風に装う。本当の自分ってどこへいっちゃったんだろうとか、本当の自分ってどういう自分なんだろうっていうのはすごく悩むこともありますよ」
だから1月の余白を大切にする。ありのままに回帰し、再び「勝つ」ための選択を整える。=敬称略=
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