確信歩きの四球に思う

 【5月24日】

 そんなに悠々と見送る球でもないような気がした。フルカウントからの6球目。153キロはアウトローいっぱいに見えた。それでも近本光司は確信をもったように見極め一塁へ歩いた。

 六回、先頭である。際どい球だっただけに、投げた高橋宏斗も落胆の色を隠せなかった。右腕はそのショックを引きずったまま続く中野拓夢にはストレートの四球を与え、これが大山悠輔同点打の呼び水となるのだから野球の流れはおもしろい。

 6回、104球を投じた高橋宏斗は彼らしい直球の強さがあったものの、精度はいまいち。尻上がりに上向くこともなかった。そんなコンディションを近本はよく見ていたのだと思う。

 さらにこの日の球審は両軍投手にとってとりわけ左打者への外が辛め。大竹耕太郎もそこのコースをことごとく取ってもらえず苦しんでいたように見えたが、そんな全ての条件を俯瞰した近本だから、あんな「確信歩き」になったのだと感じる。

 しかし…。追い上げた九回は見ている側はおもしろかったけれど、近本は怪訝そうな顔をした。1死二、三塁で巡った打席で2球目の外角球を確信を持って見送ったが、今度は球審の右手が上がった。近本はジャッジのことをああだこうだ言わないし、「それも野球」といえばそうなのだが、こっちも愚痴をこぼしたくなるようなボール球…。まあ、そんな日もあるか。

 さて、パ・リーグではめでたい1本が生まれた。楽天の浅村栄斗がプロ17年目で2000安打を達成した。平成生まれでは初の快挙だそうだけど、浅村が大阪桐蔭から西武に入団したのが08年ドラフトだから上本博紀と同期。ついこの間のように感じてしまう。

 僕も2000安打達成の瞬間に立ち合ったことが何度かあるけれど、個人的に印象的だったのは、金本知憲、福留孝介、鳥谷敬のそれである。

 タイプが違う打者だったけれど、あえて共通点を書けば、この3選手は空(そら)から自分を見る力に長けていた。「鳥瞰力」とでもいおうか。

 大局を見る。そして、もう1人の自分が自分を見る。だから、なのか。少なくとも打撃に関しては、プロ入り間もない頃は別にして、特別誰かに教えを請うことはなかったように思う。

 打撃の師匠といえば?

 「特に誰…ということはないかな」

 金本にも福留にも同様の質問をして同様の答えが返ってきたのだが、結局、そういうことなのだと思う。

 練習は孤高。試合になればフォア・ザ・チーム。個に興味が向かない。

 僕はこの空気感を近本光司の信念に感じている。この日はヒットが出なかったけれど、チーム競技のワンピースとしていかに振る舞えば勝てるか…そこだけに集中して席に立っている。

 1000安打まで残り11本。それが達成されたとき、僕らメディアは勝手に「節目」と書くが、近本はもしかしたら「通過点」とさえ言わないかもしれない。だから願う。もう間もなく通り過ぎるそれが勝つために意味をなす1本になることを。=敬称略=

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