胡麻新月を味わう紅白戦
【2月12日】
木浪聖也のお母様に会った。というか…わざわざ挨拶に来てくださった。
「吉田…風さんですか?」
は、はい。
「はじめまして。木浪の母です」
えっ?
思わず記者席から立ち上がった。
お若い…。そして、お綺麗…。
テレビで拝見したことがあるが、実物はもっと…いや、これ以上書けば、木浪に怒られそうだからやめておく。
「いつも素晴らしい記事、ありがとうございます。家族で楽しんで読ませていただいております」
とんでもない…です。お世話になっているのはこちらのほうです。
以前、書いたことがある。木浪の人間性に触れ…どうすれば、彼のような礼節溢れるオトナに育つのか、と。
「聖也を育てた人」に初めてお会いして少し合点がいった。
朝から満員の球場で僕を探してくださったようだが、声を掛けていただいたのは紅白戦の中盤。グラウンド整備のタイミングだった。新聞記者のシゴトを気遣ってくれたのだ。
「これ、もし良かったら…。黒胡麻のお菓子ですので食べた後、歯が少し…。お気を付けくださいね」
胡麻新月-。青森の銘菓である。
白飯も麺類も何でも胡麻を振りかける僕の嗜好をご存じ…なわけないけれど、早速いただいた感想は…食感も風味もたまらん。いや、それよりも、新月といえば、昔から願い事が叶う言い伝え。縁起良きお土産に感謝である。
さて、紅白戦の本筋を。
お母様とお話したのは、木浪が左前腕付近に死球を受けた直後だった。
「ここですから…。大丈夫でしょ」
当たった箇所はおそらく前腕の内側…関節じゃなさそうなので「軽症」では?息子の強運を信じる母だ。
この紅白戦で独断の評論を書けば、木浪が「一流」の階段を上るように見えた一戦だった。それこそ死球のシーンである。四回、左腕岩田将貴の初球まっすぐが逆球になり、もろに直撃したわけだけど、木浪は涼しい顔で一塁へ。血相を変えて謝罪する岩田に手をあげ「大丈夫!」。駆け寄ったトレーナーも制し「問題なし」の合図。コールドスプレーも施さず、何食わぬ顔でベースに立った。それでも気になる様子の岩田に再度「大丈夫だから!」。イニングの終わりにも、もう一度、OKサイン。これ…木浪の胸中には二つの思いがあった。そう感じる。ひとつは岩田への激励である。この死球で自分が神妙に痛がれば、左腕は思い切って腕を振れなくなる。変則左腕は左打者の内角をえぐってナンボ。チームのために、制球を磨けばいい。どんどん攻めろ。気にしなくていいよ、と-。
そしてもう一つ。木浪には例えケガしても出続ける覚悟がある。もちろんこの時期に無理は禁物。が、どのみち出るのだから誰にも気遣わせない。だから、爽やかに一塁まで走る。
新月に願い事を。記者席で隣を見れば、ほほ笑む母。なるほど一流の階段を上る木浪の強運は…そうか。いいものを見せてもらった。=敬称略=