男前のコンビニ弁当
【11月9日】
阪神プロスカウトの岡崎太一が独立リーグ日本海「石川ミリオンスターズ」の監督に就任する。岡崎は球団に籍を置いた形で派遣されるようだが、彼にとっても、球団にとっても素晴らしい機会だ。
「岡田監督の野球は、準備力の高いチームでした。その大切さを伝えたい」
岡崎はこの日、甲子園で行われた会見でそう語っていた。同郷、奈良出身ということもあり親しくさせてもらっているけれど、とにかく彼は勤勉家。現役引退後、プロスカウトに就いた際は「学ぶことが多いですし、めっちゃ勉強になりますよ」と語っていた。今回のチャレンジで、ひと回り成長して球団へ還元するに違いない。
「指導者としてのキャリアアップ」といえば思い出す男がいる。今シーズン土壇場まで阪神に食らいついてきた広島カープの名参謀藤井彰人である。
阪神で15年に現役を退いた藤井は、翌16年に独立リーグ福井へ出向という形で派遣され、バッテリーコーチの肩書で野手全般の指導を担当することになった。
「福井での一年間は、選手への言い方、伝え方を学びましたね。指導する側が何を言っても、結局選手に伝わっていなければ、指導にならないわけでね。こちらの伝え方次第で、伝わる選手と、そうでない選手がいますから」
藤井は僕にそう話していた。いざ、独立リーグの現場に立てば、出発前に語っていた「ワクワク」感だけでは済まなかった。
「阪神では、球場へメシを持っていくという習慣がなかったのでまずそこからでした(笑)。気付けば一日一食の日もありました」
グラウンド、用具、移動、衣食住…挙げればキリがないほど、阪神との環境の差は歴然だった。
福井まで会いに行くから、メシでもいこうよ。夜、忙しい?
あの当時、そんなLINEを藤井に送ると…
「オッケーです。今?部屋でコンビニ弁当食ってます(笑)」
そんな返信が懐かしくなる。
プロで数千万稼いでいた選手が
引退後すぐ「別世界」に触れる…環境に恵まれない者の反骨心とはどういうものか。行って、見て、直(じか)に携わらなければ絶対に分からない「境地」を藤井は持ち帰り、17年シーズンに阪神へ復帰。22年シーズンまで指導者として球団に還元していた。
「あの一年で、めちゃやせました(笑)。でも、福井での経験がいま活きています」
藤井はそうも語っていた。
阪神は今秋のドラフトで四国IL徳島の椎葉剛を2位指名した。これには正直驚いたが、と同時に担当スカウトの眼力が楽しみにもなった。支配下6人、育成17人、計23人の独立リーグ選手がNPB球団から指名を受けるのは、ドラフト史上歴代最多。もう、そういう時代になったのだ。
「一芸に秀でた選手が多いのできっかけをつかんでNPBに行けるよう取り組みたいと思います」
岡崎太一の所信表明にワクワクと使命感が滲んだ。 =敬称略=
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