仙台と山形をつなぐ夢

 【6月7日】

 東北福祉大野球部前監督の大塚光二から聞いたことがある。

 「大学生にとって、あのステーキを食べるのはちょっとした贅沢だったよ」

 あのステーキ…。

 仙台と山形をつなぐJR仙山線(せんざんせん)「北山駅」から住宅街の坂道をのぼれば、その高台にあるレストラン「カヤ」。東北福祉大野球部で知らない者はいない老舗に僕も長年お世話になってきた。仙台遠征の楽しみは「カヤ」のガーリックステーキを昼間から堪能すること。金本知憲や矢野燿大は3日に一度、いや、3連チャンの年もあった。それくらいやみつきになる味である。

 「お昼時は忙しいから、ちょっと時間をずらして来てくれたら」

 毎回、おかみさんにそんなことを言われる。確かにランチタイムはいつも満席。フロアも厨房も大忙しだけど、現役時代の金本は試合前に駆けつけ、牛と豚のステーキを注文。「風も2枚いく?」と薦められ、一度だけ180グラムをダブルで頼んだら、腹がパンパンで晩メシ要らず。夜の国分町はグラスだけ…なんて年もあった。

 矢野、金本が阪神監督を退き、両者の先輩大塚も今年限りで福祉大の監督を退任した。

 大塚は15年夏から母校で指揮をとり、DeNA楠本泰史、ソフトバンク津森宥紀、オリックス椋木蓮らNPB選手を輩出。昨秋のドラフトでも3選手をプロへ送り込んだ。もちろん、我らが中野拓夢も大塚の教え子である。

 山形の両親が観戦した楽天モバイルパークで、「里帰り」した中野の勇姿を大塚もどこかで見ているだろう。前夜は3安打。この夜も田中将大からチーム初安打を放ち、初戦●の負けられないカード2戦目で初回に打線を活気づけたHランプは価値が高い。

 そんな中野がこの日の試合前、東北福祉大から同大初となる「特別功労賞」を受賞した。卒業式以来初めて母校を訪れ、授与式で賞状を贈られた彼は「懐かしいと思いながら…」と、学内を見渡しながらはにかんでいた。

 阪神が20年ドラフトで中野を指名した経緯を取材すれば、情報戦に於いて「大塚-矢野」ラインが活かされたという声も聞いた。今となっては、なぜこんなに素晴らしい素材が6位なのか。そう感じるファンも多いかもしれない。

 山形出身の中野は福祉大卒業後に三菱自動車岡崎へ進み、ショートでレギュラーを獲得。守備範囲と打撃センスには定評があった。が、意外なのは、当時各球団のスカウトが記したレポートで走力の割に「盗塁」の評価が低かったこと。そんな要素も指名順位を下げた要因かもしれないが、しかし、中野は技術を磨き、新人年に盗塁王。今季も6盗塁を決めアマ時代の「採点」を見事に覆している。

 中野は母校で「夢と希望をお届けできるように」と語った。開幕から全54試合フルイニング出場を続けるのは近本光司と中野のみ。首位岡田阪神の象徴となった仙山の星…。故郷の風が心地良さそうだ。=敬称略=

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