「遠山流」のビジョン
遠山昭治に会った。そう、松井秀喜キラーの、あの遠山である。現在、浪速高野球部監督を務める遠山はスカウティング活動にも精を出し、この日は姫路市内で有望な中学生を視察していた。
「久しぶりだね」
ふだん高校球児の情熱に触れているからか、54歳になった遠山は若々しい笑みで話してくれた。
つい最近までMBSの解説者として阪神戦を語っていた印象だけど、今は浪速の監督業一本。この時期は再来年の新入部を見据え、中学2年生の発掘に余念がない。
「そうそう、この前、野村監督をしのぶ会へ行ってきたよ」
遠山といえばノムさん再生工場の象徴的存在である。ドラ1で指名された阪神からロッテへ移籍、一時は野手転向した左腕は再び阪神へ戻り、野村政権の99年に63試合登板でカムバック。スリークオーターから更に腕を下げ、サイドスローからシュートで左打者のインコースをえぐる…全盛期のゴジラ松井に「顔も見たくない」といわしめた、胸のすく左キラーだったことは、虎党もよく知るところだと思う。
当時、ノムさんから「左バッターのインコースに投げられないか?」と聞かれた遠山は「投げれますよ」と半ばハッタリで応じ、左殺しの術を磨き続けたのだ。
あれから20余年、遠山は中学球児を眺めながら、僕に言った。
「この世代で結果を出している子たちはもう有名校からたくさん誘いがある。とにかく僕としては素材を見るよね…。肩がすごく強いとか、足が速いとか」
大阪の高校球界といえば、大阪桐蔭を筆頭に履正社など中学の日本代表クラスが顔をそろえる。センバツ出場はあるが夏の甲子園はまだ見ぬ浪速だから、潜在性のある好素材を集め、遠山が育む以外に怪物校の牙城を崩す道はないのかもしれない。僕は、その「育み方」に期待してしまう。なぜなら遠山は知将からそれを授かり教わってきたから。身を以て経験してきたからである。
ノムさんはかつてNHK・BS1の『球辞苑』で遠山について、こんなことを語っていた。
「相手の苦手意識を作るのが理想なんです。遠山をコールすると松井が『またイヤなピッチャーが出てきた』と思う。それが一番」
野村政権の1年目、松井をシーズン無安打に封じた遠山だけど、前年までは戦力外と隣り合わせ。土俵際の男だった。しかし、ノムさんの解析は違った。彼の能力があれば、アプローチを変えてやれば化ける。活きる道はある-と。
「阪神、惜しかったな。今年はいくと思ったけどな…」
遠山は、優勝を争った阪神に注目していた。自身が輝いた〈ふるさと〉だからもちろん気になる。
「ウチは楽しそうに野球をやっているなと相手チームに思わせたい」-。それが、浪速監督・遠山の理想だ。楽しそう。でも、あそことはやりたくない。そんな野球そんな選手を育むことが遠山野球のビジョンか。矢野阪神の目指す野球と通じるような。=敬称略=
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