牛若丸だって38失策

 【7月10日】

 坂本勇人でもそんなことがあるのか。中野拓夢の打球は、飛んだ瞬間ショート正面へのイージーゴロに見えた。これが捕球寸前わずかにバウンドが沈んだか、名手の股間をきれいに抜けていった。

 三回である。このトンネルが阪神の先制点に繋がっただけに、巨人のキャプテンは、当然ながら、ぶ然とした面持ちでスコアボードを見つめていた。

 土のグラウンドでイレギュラーはつきもの。厳しい書き方、いやリスペクトをもって書くなら、坂本なら対応できた。僕はそう感じる。押しも押されもせぬ球界のスターが前半戦の天王山でよもやのミス…阪神側からすれば、これもツキ。運。もっているのかもしれない。

 さて、本筋はここから。

 この夜、バットで坂本のエラーを誘った中野の守備についてあらためて触れてみたい。

 すっかりショートのレギュラーとして定着している25歳である。大学、社会人を経たルーキーといえど、彼はドラフト6位。球団の期待値としても、初年度からバリバリのスタメンで…というほど、大きなものではなかったはずだ。それがバットで、守りで、なくてはならない存在になった。

 守備力でいえば、中野のプレーを見ていて純粋に感じること、それは〈エラーを恐れない〉守備をすることだ。誰だってエラーなんてしたくない。一試合、一試合を無失策で乗り切りたい。しかし、中野はだからといって〈守備的な守備〉をしない。僕はそんなふうに感じている。

 いつだったか、山崎憲晴から聞いたことがある。現在、阪神スコアラーを務める山崎といえば、ベイスターズ時代、技術の高い遊撃手としてならした男。その彼が中野についてこう話していた。

 「表現は難しいんですけど、アウトにするためにチャレンジするそんな、攻撃的な守りをする選手だと思いますよ」

 例えば、三遊間のゴロで、正面で捕れば確実に捕球できる打球が転がってくる。しかし、打者は俊足。逆シングルでなければアウトにできない。中野は〈体内時計〉でそう判断すれば、安全策より、リスクはあれど、迷いなくそっちでチャレンジする選手だと思う。

 正面で確実に捕球する。でも、送球は間に合いません。内野安打なら仕方ないし、自分に失策はつかない…そんな守備的なショートにはなってほしくない…というか中野はそうなりそうにない。

 初回の守備で中野の送球が浮いたシーンがあった。記録は内野安打だが、これが課題であることは本人もしっかり自覚している。

 彼はここまで12失策。この数はチーム最多であり、セ・リーグ遊撃手でも最多。そりゃ少ないに越したことはないけれど、球史を紐解けばどうだろう。

 吉田義男の初年度は38失策。広岡達朗の初年度は29失策。TとG両軍の名ショート、レジェンドだって、これだけミスをしたのだ。中野よ、守りで攻め続けろ-。僕はそう願っている。=敬称略=

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