雨でも、天晴れを…

 雨が降っても、天晴れだ。この試合を振り返ったとき、青柳晃洋にそう伝えたくなるシーンが二つあった。一つは阪神2点リードで迎えた二回の攻撃。1死一、二塁の好機で巡った打席である。

 追加点がどうしてもほしい。ベンチは犠打のサインを出し、青柳は一発で決めた。ソフトバンク石川柊太の直球をうまく転がし、2死二、三塁の局面をつくると、続く近本光司の2点打へ繋がった。 これで4-0。雨が降ったり止んだりのややこしい天候の下、序盤の加点は、チーム、そして自身にとっても心理的なアドバンテージに繋がったに違いない。

 「もう1点取りたい、取れるところで点を取れなかった。泥臭い1点というか、そういうものをどうやって取っていくかという部分も課題かなと思っています」

 これは昨秋、コーチングスタッフ発表の際に矢野燿大が発したコメントである。驚いたのは、久慈照嘉内野守備走塁コーチの肩書が新たに「内野守備兼バント担当コーチ」になったこと。矢野は「ある程度、担当がはっきりした中でやってもらうのも必要」と説明していたけれど、いわば、犠打成功率の〈責任の所在〉を明確にした改革といえる。

 そんなにバント失敗したっけ…昨シーズンの記録を確かめると、阪神の犠打成功率は・819(企図数116、成功95、失敗21)。セ・リーグ6球団でナンバーワンだった。もちろん、フロントも矢野もこの数字を知ったうえで新たな職責を追加した。つまり、もっともっと成功させなきゃいけない…印象打ならぬ、〈印象犠打〉をもっと増やしたい。そんな狙いだったと想像する。

 今季はどうか。

 この試合前まで(51試合)の阪神の犠打成功率は・774でセ・リーグ3位。2年連続トップへ、ここから成功率を上げられるか。

 青柳は5点リードの七回に犠打失敗したため、この日の成功率は5割。本人は失敗を反省するだろうけれど、二回の〈印象犠打〉に重きを置けば合格点。バントが簡単なものじゃないから「担当」をつけたわけで、勝って課題にできたことは良かったと感じる。

 そして、もう一つ。青柳を称えるべきは六回の投球である。J・マルテの失策でピンチを背負いながら、ここで粘り、0で抑えたこと。「天晴れ」と伝えたい。

 昨季85失策は12球団ワーストだった。今季はここまで36失策でリーグワースト。矢野は昨秋「大きな全体の課題として残った。全員の意識、準備、気持ちがあってこそ改善される。チーム全体、僕ら首脳陣の立場からもしっかりやっていきたい」と語っていた。

 無失策ゲームが続けば問題ないわけだけど、それは非現実。大事なものは、この試合の青柳のように味方のミスをカバーするタフネスさ。投手がしんどいときは野手が、野手の失敗は投手が…双方が補い合うことでONE TEAMになっていく。王者に先勝した雨のち曇りの夜、視界を照らす晴れ柳さんを見た。=敬称略=

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