考えて、野球せぇ!

 【3月28日】

 野村克也の追悼試合に奥川恭伸が先発する…ヤクルトにとって絵になる開幕3戦目だから、ノムさんにまつわる気の利いた話を書くべきか。そんなことを考えながら記念の一戦を見たのだけれど…。

 実はエラそうに美談を語るほどノムさんを取材したことがない。だから、純粋にこのゲームで感じたことを書くことにする。

 見どころは、純粋に奥川対阪神打線だった。まだ19歳の甲子園スターをどう攻めるか。規制もあってミーティングの内容を根ほり葉ほり取材できない以上、打者の対応を見て判断するしかないわけだが、奥川がこの日もっとも嫌がった阪神の打者は誰だったか。

 J・マルテだったと感じる。

 三回に特大のホームランを打ったから?その通り。では、なぜあのホームランが生まれたのかを考えると、初回からマルテの見極めが「肝」だったように感じる。

 1死一塁で迎えた第1打席、カウント2-2からの5球目はヤクルトバッテリーが勝負球に選んだフォークボール。これをマルテはゆうゆう見極めたように見えた。

奥川が思わず苦笑した絶妙なコースにバットを出さず、フルカウントをつくり、さらに6球目…。前球より沈んだフォークをこれまた見送り、四球をもぎ取った。

 これで得点圏にランナーが進みJ・サンズの先制打を呼び込むことになったのだが、これぞマルテのストロングであり、第2打席のビッグフライへ繋がっていく。

 2死、ランナー無しで迎えた三回は、奥川はもちろん一発警戒だったはず。マルテは追い込まれてからの140キロフォークを2球続けて見極め、またフルカウントをつくってから、最後は浮き上がった直球をドカンである。

 こうなれば、もうマルテ劇場。ビッグイニングの起点になった八回の打席も吉田大喜の奥川より精度の落ちた変化球を余裕をもって見極め、フルカウントに持ち込んで、最後は高めの直球を右へ運んで4-0。試合を決めた。

 「誰もが4番打者、主役を目指す必要はない。100メートルを走るのに20秒かかる人間は、100メートルで勝負する必要はないし、42・195キロを2時間ちょっとで走れないなら別の競技で戦えばいい。(中略)自分の武器とは何なのか、自分にはなにができるのか。まずはそれを見極めることである」

 これは先月発刊されたノムさんの追悼著書『頭を使え、心を燃やせ』(プレジデント社)に記された野村語録である。長年虎を取材しながらノムさんとは無縁。だから、あらためて本を読んでみた。

 「考えて、野球せぇ!」

 マルちゃんの今季1号が飛び出した三回終了時、神宮のカラービジョンにノムさんのそんな追悼語録が映し出された。30発、40発は打てない。けれど、自分の武器も奥川の勝負球も見極めたマルテが3連勝へ導いた。昨季は故障もあり、4本塁打に終わった助っ人を阪神が残留させた所以でもある。

 「ええ助っ人やないか」-。阪神で暗黒期を味わった名将が草葉の陰でボヤいている?=敬称略=

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