狙ったバックスクリーン弾
【9月24日】
巨人軍コーチの元木大介がバットを持って阪神ベンチへやってきた。試合2時間半前のことだ。
「このバット、阪神さんの忘れ物ですよ。阿部慎之助のサイン入りでお返ししますわ」
試合前の練習はホームチーム、ビジターチームの順に行う。元木によれば、両軍の練習の入れ替わりで、阪神のノック用バットが打撃ケージの脇に置いてあったという。この日、引退の決断が明らかになった阿部がタイガースと甲子園へ感謝を込め、記したそうだ。
ありがとうございました-。
一塁側のベンチにいた報道陣はみんなで「達筆やなぁ」と感心。元木からバットを受け取った阪神OB会長の川藤幸三は「阿部は指導者になってからも楽しみな男やなぁ」と、顎をさすっていた。
いずれその時がくるであろう、巨人軍監督・阿部慎之助を思い浮かべると、采配をふるその姿は何だかサマになるような…。
「お疲れさまです!」
元木に続いて今度は、丸佳浩が阪神ベンチへやってきた。
「おう、おめでとうさん。パ・リーグに勝たなあかんぞ」
川藤がそんなふうに優勝を祝福すると、丸は破顔で返した。
「はい!でも、その前に、きょう打たせてください!」
練習に戻る丸の背中を眺めながら川藤はポツリ。「これが本当の補強だな…。丸は効いたで」
巨人軍監督の原辰徳は「坂本勇人がぶっちぎりのMVP」と、主将を称えていたけれど、丸&坂本のニコイチでMVPでしょ…。それくらい、二人の相乗効果で破壊力がグンと増したように思う。
ちなみに、今年の丸は阪神戦でどのくらい打ったのか。本紙の記録部に確認してみると…。
「対戦カード別では阪神戦がワースト。対戦打率は・281」
ワーストといわれても、阪神戦が苦手…とも書きにくい数字だ。
打率・365、4本塁打-。
こちらは福留孝介の今シーズン対巨人戦成績。打率、本塁打とも対戦カード別最高である。
そんな42歳が放ったバックスクリーン弾に久々に鳥肌が立った。
場面は4点リードの七回先頭。3ボールから全て120%の力感でフルスイングした。2度空振りし、2度ファウルした後の8球目をパーフェクトに仕留めた。あれは間違いなく、狙って打った。そう思ったので、番記者の囲みが解けた後、本人にぶつけてみた。
「状況にもよるけど、割り切った打席もあっていいと思う。うまく対応できたのは良かったかな」
うん、狙ったよ-とは言わなかったけれど、この言葉が全てだ。
福留孝介はまだこんなに迫力がある。そんな「怖さ」を王者相手に植え付けた意義は、来シーズンを見据えて、大きい。
ダイヤモンドを〈キャリア最速?〉の駆け足で回った。うまく書けないけれど、この一連の姿こそ今のチームのお手本になる。阿部コールが右翼席でもこだました巨人との最終戦。セ・リーグの最年長スラッガーが引退の2文字を遠ざける夜になった。=敬称略=