広島よりも、巨人よりも

 【2月2日】

 振り向くと、阪神球団顧問の南信男が立っていた。「隣、ええかな?」。「ど、どうぞ」。ええも悪いもない。宜野座のマスコミ席が満席なもので、こちらは無断で球団OB席に座らせてもらっている身だ。「悪いなぁ」。ですから悪くないですよ…(心の声)。

 昼下がり、ネット裏の高いところから南と並んでキャンプ2日目の練習風景を眺めた。ご存じ、南といえば前の前の球団社長で、金本知憲の監督招聘に尽力した人物である。「カネはどうしてんの?こっちには来ないのか?」。南に限らず、この2日間で球団関係者から何度も聞かれている。「評論家活動で宜野座へ来られることはないと思います」。これが僕の知る限りだから、そう答える。

 「ウチの監督業は特別というか独特やからな。背負(しょ)ってるものは、巨人とか広島よりも重いよ」。「巨人より…ですか」。「うん、僕はそう思ってるよ。ウチの場合、巨人以上に、監督が矢面に立つことが多いだろ」。

 その昔、ミスタータイガース村山実の監督付き広報を歴任した南の言葉は生々しい。「村山さんはずっと股関節が悪くてな…」。日々、カラダをいたわる間もなく、文字通り、心身を削りきってタイガースに人生を捧げるゲキ務。

 「あの星野さんでさえ途中で身体を壊したんやからな。13ゲームを逆転された08年は、岡田監督もシーズン中に吐いていたよ。カネだって相当キツかったと思う」。

 そう語る南と僕の視線の先にはキャンプ施設を所狭しと意欲的に動き回る矢野燿大の姿がある。

 「矢野監督も苦労すると思う」

 南はそう言った。もちろん、他人事のニュアンスではない。阪神監督の宿命を思えば、第34代の使命もなだらかであるはずがない。

 阪神球団本部長の谷本修は沖縄入りした1月31日の朝、甲子園球場の隣にある素盞嗚(すさのお)神社をひとりで参拝。手を合わせてから伊丹空港へ向かった。

 「原口選手の回復。そして、タイガースの選手の安全を祈願して…」。谷本にとって同神社への御参りはルーティン。キャンプイン前日も大切な日課を欠かさなかった…ということだろう。原口文仁の復帰を待望し、舞台の袖から矢野体制の成功を願うフロント陣、縁の下でスクラムを組むスタッフが、2月1日から共に大願へ向け揚々とスタートを切ったのだ。

 僕は1日の深夜、サッカーアジア杯の決勝をホテルの自室でテレビ観戦した。日本代表監督の森保一は「選手が思い切ってプレーできる状態に準備できなかった自分の責任」と、悔いを語っていた。分析チームを含め準備万端で臨んだはずのファイナルで、相手システムへの対応が後手になり、FIFAランクで43位下回るカタール相手にV逸。おそらく、このカードが埼玉スタジアムでのキリン杯なら勝利していただろう。けれど雌雄を決する戦場ではアドバンテージは100あっても足りない。

 NPBランク最下位の虎が最上位を狙う19年である。矢野の覚悟を追っていきたい。=敬称略=

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