長友佑都が笑った理由

 【7月3日】

 あれは驚いた…というか、感動さえ覚えた。ブラジルW杯を控えた日本代表の合宿が大阪・堺で行われたときの話である。日本サッカー協会の看板スタッフとランチをご一緒することになり、店の場所を相談した。「どこでも伺いますので」と伝えたところ、そのスタッフは「家の近くまで行くよ」というのだ。さすがにそれは申し訳ないので…と遠慮したのだが、結局、その方は本当に当方の自宅の最寄り駅「JR芦屋」まで、わざわざ足を運んでくださった。

 駅からすぐの老舗肉店で定食を食べながら、色んな話をさせてもらった。前回W杯の前だから、あれから4年以上になるが、何を話したかよく覚えている。選手を支えるとは…。選手とメディアの正しい関係とは…。こちらのぶしつけな質問にも、すべて丁寧に答えてくれた。世界の大舞台を何度経験しても謙虚さを失わない。プライベートで時間を作ってくださったので会話の中身は控えるが、この方こそ、チームをサポートするスタッフの鑑。そう感じる時間になったことは間違いない。

 長友佑都の笑顔を見ながら、このスタッフを思い出した。ベルギー戦で散ったロシアW杯である。読者の方、感動されましたか??2点目のゴールが決まると、僕も近所迷惑なほど声をあげてしまったけれど…ほとんどの選手は泣いていた。原口、乾、川島…声を枯らし涙していたが、ただ一人、長友だけは白い歯を見せていた。

 4年前、あのサッカー協会スタッフはアルベルト・ザッケローニ率いる侍ブルーを支え、遠くブラジルの地で代表チームとともに散った。グループリーグで1勝もできなかった現実を受け止めて…。あの時、同スタッフは泣き崩れる長友を抱きしめていた。「このW杯にかけてきたものがあって…。そうですね…。すみません、ちょっと外れてもいいですか…」と会見場から去った長友の肩を抱え、何度も何度も声をかけていた。

 ブラジルで悔し涙に暮れた長友は、ロシアで清々しく語った。

 「悔しい。悔しいですけど、自分たちのすべてを出したので悔いはありません。自分にできる事はすべてやったので。笑顔で、胸を張って、帰りたいと思います」

 涙しか出なかったブラジルの悔恨を胸に長友はこの4年間、自分自身と戦ってきた。できる事はすべてやった。1ミリも悔いを残さないようにやり切った。だから、晴れ晴れとして8強が見えた激闘を誇りに日本へ帰ってくる。

 若かろうが、ハードラックだろうが、これが後のない戦いなら風当たりは強くなる。眠い目をこすって見届けた甲子園の夜。これが一発勝負なら「経験がないからしゃあない」では済まされない。ショート熊谷のエラーに「新人なので大目に」「起用する側の責任」と書きかけたが、やめておく。

 これでシーズン半分を終えた。阪神の失策数はセ・リーグワーストの「48」まで膨れた。選手だけではない。チームとして「悔いのない準備」「できる事はすべてやった戦い」を見たい。=敬称略=

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