金本にみる3年目の「変化」

 【5月27日】

 1年目、2年目、そして、3年目…。阪神監督の金本知憲を見てきて、その変化に気づく。打撃ケージなど、僕らの見える場所で若い選手を指導する姿を見かけなくなった。報道陣が立ち入れない室内等で大山悠輔らへ要所のアドバイスはあると聞く。ただ、通常の打撃廻りで熱心に指南するシーンを(少なくとも僕は)開幕から見ていない。今シーズンから意図的にスタイルを変えたのか。

 「言わないようにしているよ。片岡ヘッドコーチの邪魔になるのも良くないし、色々と考えて…」

 プロ野球歴代7位、通算2539安打を積み上げた大打者だ。確固たる打撃理念を伝えたい。全てでなくとも、進歩に役立ててくれれば…。監督就任以来、そんな思いがあったはず。でも、今年は最小限。あきらめて、匙(さじ)を投げた…なんてことはあるまい。

 いよいよ明日から交流戦に突入する。細かい数字には触れないけれど、ここまで44試合、虎のチーム打率、本塁打、得点はいずれもリーグ最低。新助っ人への期待値が高かっただけに、こんなはずでは…と想定との落差も大きい。

 監督やコーチによる技術指導-この世界でこれほど答えのない作業もないように感じる。そもそも自主性なしには生き残れないプロ野球において、それが不可欠なのかという別の議論もあるが…。

 僕の問い掛けに金本は多くを語らなかったけれど、基本的なものはある程度伝えきった…という思いも少なからずあるのかも。

 前日、巨人OB槙原寛己が新庄剛志を回顧している番組を見て思い出したことがある。FAで海を渡った新庄を追いかけ、メジャーリーグを取材した20年近く前のこと。初めて本場のキャンプ(スプリングトレーニング=メジャーではそう呼ぶ)を見て驚いた。コーチが全く「指導」しないのだ。

 いや、実際は「全く」かどうか分からない。でも、新庄が入団したニューヨーク・メッツを3カ月取材した限り、いつ見ても、コーチは選手の「相談」に乗る程度。あとはどう見たって雑談。世間話をしているようにしか見えなかった。あのとき新庄は笑っていた。「何も言われないんだけど…」。

 印象的なシーンがある。元阪神で、メッツでも新庄の同僚になったマーク・ジョンソンがキャンプ中〈居残り練習〉を毎日やっていた。休まず、毎日だ。もちろん、コーチの指導なんてない。ジョンソンは僕に言っていた。「こっちでは、上手くならないと代わりなんていくらでもいるからね」。

 「自主性」に委ねる。言葉は同じでも、この概念は日米で大きく異なる。北米、中南米、アジア…代わりは掃いて捨てるほどいる世界がMLB。「もう要らない」といわれればそれまで。指導がなければ上達できない-なんて認識は選手側もコーチ側も皆無なのだ。

 月並みな表現では「危機感」ということなんだろうけど、この意識が少しづつ教え子に根付いてきたのか。指導が控えめな3年目…金本は、もしかしたらそう感じているのかもしれない。=敬称略=

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