「来年勝つ」為じゃない

 【11月13日】

 安芸へ来た。日本シリーズの取材等で暫くタイガースを離れていたので、タテジマを見るのは10月17日以来になる。10・17…特に記憶に留めようとは思わないが、クライマックスシリーズ・ファーストステージでDeNAに負けた日付である。早いもので、もうあれから1カ月が経とうとしている。

 朝、西宮を出てちょうどランチ時に安芸市営球場に着いた。メイン球場のスタンドからグラウンドを眺めると、こんがり日焼けした金本知憲が熱心に北條史也、陽川尚将の打撃練習に見入っていた。

 時折ジェスチャーを交え、ひと声、ふた声掛ける。すると、今年悔しい思いをした面々が真顔で耳を傾けるのだ。本紙の若い番記者が彼らのスイングの数、オーバーフェンスの数を数えながら、もうすぐ2週間になる安芸キャンプの見どころを教えてくれた。

 野手でいえば、捕手を含めた内野手の競争がおもしろそうだ。まあ、それは聞かずとも分かる。まだ秋とはいえ、レギュラーの枠がこれだけ不確定なチームもない。そこにチャンスが落ちているのだから目の色を変えないとウソだ。

 来て早々こんなこと書くのも何だけど、つくづく金本は生え抜きに優しい監督だと思う。他意はない。本当にそう思うから書いている。この時期、関西のスポーツ紙は阪神の補強のハナシをこぞって書く。僕は番記者ではないのでナナメからの取材になるが、ときどき球団内の情報も漏れ伝わってくる。それによると、金本のリクエストは一貫して「生え抜きの芽をつぶさない補強」。僕のような補強論者からすれば…いや、あまり偉そうに書くと支障がある。

 12日、巨人オーナー老川祥一がキャンプ地の宮崎で補強について語ったそうだ。巨人は来季優勝を逃せば、球団ワーストタイの4年連続V逸になるという。美酒から12年遠ざかる球団からすれば、たった4年やん-とツッコミたくもなるが、老川はその危機感から「来年勝つ」ことを命題に掲げ「できるものはしたい」と、FA、外国人の補強を惜しまないことを公言したわけだ。今年は30億ともいわれるカネで戦力を集めながら、想定外のアクシデントも重なってBクラスに停滞。来年は何が何でも!!そんな大号令である。

 夕方球場を引き揚げる金本に巨人軍の話題を振ってみると、少し間を置いてこう言った。「やり方はそれぞれだからな。ウチは最小限だよ」。今キャンプ前に当欄で書いたように、金本には信念がある。「補強は最小限。育成は最大限」-。書き方を間違えると誤解を招くが、金本は「来年勝つ」チームを作ることが目標ではない。何年か先、自分が監督を退任した後も「長年勝てる」チームを作りたいのだ。10年レギュラーで活躍できる選手を自前で何人育てられるか。これが就任期間で自身に課す命題。こう書いて間違いない。

 レンタカーで国道55号線を宿舎へ引き揚げると、真っ赤な夕陽が飛び込んできた。金本は何年も沈まない「常勝」という名の光を追っている。=敬称略=

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