希望のお化け

 【3月17日】

 背番号…133?阪神ファンの友人が「誰だっけ?」と聞く。ナゴヤドームの外野席から眺めてみると、ネクストでバットを振る選手は豆粒サイズだ。六回、場内アナウンスで糸井嘉男の代打に西田直斗がコールされる。あぁ、あの西田。そう、大阪桐蔭で藤浪晋太郎の1年先輩だった西田である。

 2011年ドラフト3位の内野手は昨秋支配下を外れ、3ケタ番号で再出発することになった。「変わらないと…」。1月、淡路島で狩野恵輔と自主トレに励んでいた彼はそう言った。安芸キャンプの実戦で23打数10安打、打率・434。変身を認められ、金本知憲から1軍に呼ばれた。高卒6年目だから、この日オープン戦3号を放った高山俊と同い年。まだ23歳。化ける時間は残されている。

 愛知在住の旧友と中日戦を観戦することになった。記者席の外から野球を観ることがないので視界が変わって新鮮。ファン目線の解説もありがたかった。岡崎市に住む彼は無類の野球好き。虎党だけど、今は隣町のシンデレラボーイが誇りだという。育成ドラフト下位でプロ入りした右腕が日本のジョーカー…どころかエース格。侍ジャパンの怪腕を見ると、その成り上がりぶりを追跡したくなる。

 ソフトバンク千賀滉大は10年ドラフトで2位の柳田悠岐と同期にあたる。愛知県立蒲郡高校出身。申し訳ないが、蒲郡といえばボート場しか知らなかった。なぜ地元の逸材を見抜けなかったんだ。中日の内部でそんな恨み節があったとすれば、さすがにスカウトが気の毒だ。だって育成の4巡目まで全球団が放っておいたわけだから。

 シンデレラのルーツを知りたくて過去の新聞をめくってみると、千賀にとって大きな分岐点が実は阪神戦であったことが分かる。

 「打ったのは直球でした。レフトへライナーのヒットだったと思います。当時から球が速くて変化球もキレキレでした。直球がもの凄く速いので、それを意識しすぎるとフォークが消えるんです」

 電話口の野原祐也ははっきり覚えていた。野原と言えば08年ドラフトの育成1位で阪神に入団したガッツマン。12年に戦力外となり、現在は社会人のクラブチームOBC高島で監督を務める。5年前の証言を聞きたかったので彼の携帯を鳴らした。千賀がプロで初めて完封勝利した試合は12年6月29日のウエスタン阪神戦。虎の2軍が甲子園で9回4安打に封じられたのだが、うち1本、まともにはじき返した打者が野原だった。「まぐれでした」と謙遜するが「フォークが消える」の証言は生々しい。「お化けフォーク」がその前身からお化けだったことが分かる。

 阪神が育成ドラフトで指名した選手は過去10人。島本浩也をのぞく9人が既に戦力外になった。原口文仁がその破壊力で支配下に復帰し、現在、西田が虎唯一の育成選手。その西田もまたあの試合で千賀にやられた一人だ。「覚えてますよ。凄いですよね…」。侍のシンデレラは「化けたい」と願う育成選手すべての希望である。=敬称略=

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