新井監督、松田オーナー、おめでとうございます 広島と阪神の違い【3】

 阪神・岡田彰布監督は「拙攻のゲームやんか」と言った。甲子園のベンチから見ればそうなる。岡田監督は試合中、なんども大きく息を吐いた。ワンプレイごとに、ふう~と口を尖らせる。気を抜けない試合展開が続いた。

 開幕してから5勝2敗1分け。好スタートを切った。岡田監督には物足りない内容でも、一度として試合が崩れたことはない。

 ノイジーの超ファインプレーは別にして、三塁佐藤輝も守備では「らしさ」を見せた。甲子園ではバウンドの難しい内野ゴロになる。先発組も交代メンバーも、きっちり対応した。文字通り体を張る捕手陣。右手で止めた梅野。坂本の湯浅に対する低め150キロへのミットさばきは見応えがある。

 守備が締まれば、試合が締まる。軸はぶれないが、柔軟に構える。完全燃焼させる選手起用。出し惜しみせず、先手で勝負をかける。岡田野球の目指す方向性は、選手にも伝わった。

 広島・新井貴浩監督。チームに対するスタンスは、岡田監督とは対照的だ。「チームはファミリー、選手はみんな家族だ」などとは岡田監督は言わない。新井監督の性格は見ての通り「律儀」である。「不器用」と言ってもいいだろう。

 先輩の金本知憲さんは「新井さんは仮面をかぶっているだけじゃ」などと冷やかす。だとしても新井さんは、仮面を脱げない性格なのだ。開幕前のNHK監督座談会で「わたしはガラケーです」と言って笑わせていた。ガラケーをバカっと開けて、ボタンを不器用に押したのだろうか。

 わたしのスマホで履歴を見ると、2022年の10月7日に新井さんからの着信がある。「松田オーナーから監督を要請されました」と正式発表前に伝えてくれた。「どうするの?」と聞くと「僕に選択肢はありません」と大きな笑い声が返って来た。

 広島カープ・松田元(はじめ)オーナーから監督を要請されれば、新井さんにとっての答えはひとつ。「分かりました。やらせていただきます。ありがとうございます」と言うしかない。

 直後にわたしは、広島球団事務所の松田オーナーに電話を入れた。「おお、あんたどうしとるんかいな」といきなりの松田節。「なんとか生きとります」と返して、新井さんからの電話内容を伝えた。

 「よろしくお願いします」。新井さんはデイリーで野球評論をしていた。この場合ふつうは、監督を要請する球団が所属するスポーツ紙に、よろしくお願いしますと言う。阪神球団の百北社長からは「岡田さんの件、よろしくお願いします」と連絡があった。松田オーナーの場合は逆だ。

 「おうよ、新井はのう出て行くときに、大泣きしよった。カープの子やけん、帰って来たらええんじゃ。笑いながら出て行った選手とは違うんよ」

 広島カープはひとつのファミリー、選手はみんな家族。新井監督の考え方ではなく、だれが監督でも守らねばならない「松田一家」の家訓だ。開幕4連敗。どうなるかと思ったら、4連勝で5割に戻した。新井監督は「選手たちがよく頑張ってくれた」と言った。新井監督、松田オーナー、まずはおめでとうございますとお伝えします。(デイリースポーツ特別顧問・改発博明)

 ◇改発博明(かいはつ・ひろあき)デイリースポーツ特別顧問。1957年生まれ、兵庫県出身。80年にデイリースポーツに入社し、85年の阪神日本一をトラ番として取材。報道部長、編集局長を経て2016年から株式会社デイリースポーツ代表取締役社長を務め、今年2月に退任した。

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