17歳で人生が一変…車椅子人生が始まって16年 首から下は麻痺 元に戻らない体 「前を向ける日と落ち込む日を繰り返し、少しずつ光が見えた」
「5月1日で車椅子人生が始まってから満16年が経ちました!」
そんな書き出しとともに、17歳のとき、柔道の試合中の事故で頸椎を損傷し、車椅子生活となった16年間を振り返る動画をInstagramに投稿した、あゆむさん(@ayumouru)。
「何のために生きればいいのか分からなかった」という苦しかった過去から、「楽しいから誰も取り残さない社会をつくりたい」という現在の思いまでをつづった投稿は、多くの人の心を動かしました。
「生きることを諦めないでいてくれてありがとう」
「勇気をもらいました」
「同じ車椅子ユーザーとして前を向きたい」
多くの共感を呼んだ投稿に込めた思いや、17歳で事故に遭ってから現在に至るまでの歩みについて、あゆむさんに話を聞きました。
■「全部なくなった」と感じた17歳
あゆむさんは事故直後のことを、次のように振り返ります。
「首に強い痛みが走り、一瞬にして首から下の感覚がなくなりました。事故直前の記憶だけは今もありません」
救急搬送され、ICUに入院。命は助かったものの、神経が損傷し、首から下に重い麻痺が残りました。
リハビリ病院では同じ障害を持つ仲間と励まし合いながら過ごしましたが、本当につらかったのは退院後だったと振り返ります。
「病院を一歩出ると、段差ばかりで行けない場所がたくさんありました。周囲には車椅子ユーザーも少なく、どこへ行っても『私』ではなく『障害者』『車椅子ユーザー』として見られているように感じました」
リハビリを続けても元の体には戻らない現実。
「どんなに頑張っても思い描いていた将来には近づけない。18歳の高校生には酷すぎる状況だったと思います」
■「生きているだけでもう十分」
今回、16年間の写真を見返したことで、当時の自分に伝えたい言葉があったといいます。
「『よく頑張っているよ』と伝えたいです」
障害を負う前は、「努力すれば世界が広がる」と信じていました。しかし事故によって、それまで積み重ねてきたものが一瞬で失われたように感じました。
「全部なくなったという喪失感で心がいっぱいでした。でも今振り返ると、なくなったと思っていたのは『できること』であって、これまで積み重ねてきた経験や人とのつながりまで失われたわけではありませんでした。だから今は、何ができるかよりも、その過程で得られる経験や感情、人とのつながりを大切にしています」
だからこそ、あの頃の自分へ伝えたいのは、「生きているだけでもう十分だから、よく頑張っているよ」という言葉です。
「障害を負ったことで、今まで積み重ねてきたものが全部なくなってしまったと感じる人もいるかもしれません。でも、これまで積み重ねてきた経験や、人と出会い、つながりを築いてきた事実まで失われるわけではありません」
さらに、あゆむさんは「あのとき頑張ってくれた自分がいたから、今回の動画も多くの方に届いた。『頑張ってくれてありがとう』とも伝えたいです」と笑顔で話しました。
■「障害者」というラベルではなく「私」を見てくれた
前向きになれた理由について、「これがきっかけ」と言える出来事はないそうです。
「潮の満ち引きのように、前を向ける日と落ち込む日を繰り返しながら、少しずつ光が見えてきました」
その中で大きな支えになったのは、家族や友人たちの存在でした。
「みんなが『車椅子ユーザー』や『障害者』ではなく、一人の『私』として接してくれました。そのおかげで、障害は私の一部になり、本来の自分でいられるようになりました」
忘れられない出来事もあります。就職したばかりの頃、歩道のわずかな段差で車椅子が動けなくなり、勇気を出して通りがかった女性に助けを求めました。
女性は快く手伝ってくれ、最後にこう声を掛けてくれたそうです。
「ちょっとした段差も大変よね」
その一言に救われました。
「困難を自分一人で抱えなくていいんだと思えました。声を上げれば支えてくれる人がいる。その経験で社会からの疎外感が薄れました」
■猫たちが教えてくれた「穏やかな幸せ」
動画には、あゆむさんの人生を支えてきた歴代の愛猫たちも登場します。映っているのは、生まれた年に兄が保護した「たま」ちゃんと、中学生の頃に保護したきょうだい猫の「ぶち」ちゃんと「くろ」くんです。
半年間の入院中は、会えない代わりに家族が撮ってくれた猫たちの動画を見て、心を癒やしていたといいます。
「猫は眺めるだけで、すでにある穏やかな幸せに気づかせてくれます」
現在は、約3年前に庭へ迷い込んできたハチワレ猫の「うに」ちゃんと暮らしています。
「たま、ぶち、くろとの別れがつらく、しばらく猫との暮らしは考えていませんでした。でも放っておけなくて、真夏の炎天下に車椅子でコンビニまで猫のご飯を買いに行ったことを覚えています」
あゆむさんにとって猫は、「居るだけでいい」と思わせてくれる存在。
「自由に何事にも抗わず最後まで生ききる姿から、人生の生き方を学んでいます」と穏やかな表情で話してくれました。
■「楽しい」から誰も取り残さない社会へ
現在は早稲田大学通信教育課程で地域福祉やコミュニティデザインを学びながら、Instagramで車椅子ユーザーの日常を発信しています。
原動力になっているのは、「楽しいから誰も取り残さない社会をつくりたい」という思いです。あゆむさんは、「楽しい」という感情には、人が困難を乗り越えるほどの力があるといいます。
「推しのライブや友達との約束があるから、つらい仕事も頑張ろうと思えることがありますよね。障害があっても、その『楽しい』という気持ちがあるから、段差やさまざまな壁を乗り越えて外へ出ようと思えます」
だからこそ、「楽しい」は誰にとっても生きる力であり、その機会から誰も取り残されない社会を目指したいと話します。
特に課題を感じているのがライブやコンサートです。
車椅子席は限られた場所にしか設けられておらず、前方の見やすい席が当選しても、後方や端に設置された車椅子席で観覧せざるを得ないことがあります。
さらに、同行者と横並びで鑑賞できず、前後に分かれて観るよう案内されるケースも少なくありません。ライブ中に同行者と自然にコミュニケーションを取りながら一緒の時間を楽しむことが難しくなるほか、介助もお願いしづらくなります。また、同行者も車椅子の後ろに椅子を置くだけの配置となるため、一般席のような見やすさが確保されないこともあるといいます。
「同じ価格のチケットを購入しているのに、友達や家族と一緒にライブの時間を楽しむという、多くの人が何気なくできている体験を共有できないんです。運営へ伝えても改善されないことが多く、ライブという場で、多くの人が自然に楽しんでいる時間から取り残されているように感じます」
海外では車椅子席が数多く設けられている施設もありますが、日本ではまだ少ないのが現状です。
「これは車椅子ユーザーだけの問題ではなく、社会の構造や意識の課題です。多くの人が何気なく過ごしている『楽しい時間』の中にも、構造や環境によって参加しづらかったり、同じように楽しめなかったりする人がいることは、まだ十分に知られていないと感じます。『楽しみたい』というごく自然な思いが叶わない人がいることを知ってもらい、『楽しいから誰も取り残さない社会』を実現できるよう、これからも発信を通して自分の思いを伝えていきたいと思っています」
将来は、誰もが安心して利用できる美容と交流の場づくりや、車椅子ユーザー向けのアパレルにも挑戦したいと考えているそうです。
■「社会にある障害」を考えてほしい
投稿の中で、あゆむさんは「障害は当事者ではなく、社会の構造や環境、制度、意識の中にある」と発信しました。最後に、読者へこんなメッセージを寄せてくれました。
「車椅子ユーザーがいない場所があったら、『なぜいないのだろう』と一度考えてみてほしいです。社会のどこかに障害があるのかもしれません」
そして…
「社会にある障害を取り除くことは、障害者のためだけではありません。いつ誰がどんな状況になっても、人生を諦めなくていい社会をつくるために必要なことです。一人一人の気づきが、より良い社会につながっていくとうれしいです」
「楽しい」は、生きる力になる…。
16年間を振り返ったあゆむさんの言葉は、多くの人に「社会の障害とは何か」を問いかけています。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)
