足腰が弱った高齢の親に「公証役場での遺言作成」はつらい→「デジタル遺言」という選択も 相続トラブル解消の切り札に?【行政書士が解説】

都心に住む40代のAさんは、帰省するたびに地方の実家で暮らす80代の両親の今後が気になっていました。しかし「もしもの時に家族がもめないよう、遺言書を書いてほしい」と言っては気分を害すのではと考え、なかなか言い出せずにいました。

仮に公正証書遺言を作るとなった場合、親が公証役場まで足を運ぶ必要があり、さらに2人の証人を立ち会わせなければなりません。この条件にAさんは「足腰が弱くなった親には大きな負担だし、証人をお願いする人も思い当たらない」と頭を抱えます。

そんなAさんがふとニュースサイトに目を向けたとき、公正証書の作成手続きがデジタル化されたという情報が飛び込んできました。対面不要で手続きが進められ、データで安全に管理されるこの新しい仕組みはどのようなものなのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■紙の遺言と何が違うのか

ー公正証書のデジタル化とは、具体的にどのような仕組みなのでしょうか?

従来の公正証書は、公証役場へ出向き紙で作成するのが原則でした。これに対しデジタル化された公正証書は、依頼者(嘱託人)の希望があり公証人が相当と認めた場合、ウェブ会議システムなどを利用してオンライン上で公証人と面談することを可とし、電子データなどへ署名し・保存するものです。公証人法の改正により2025年10月1日を期日として施行されました。

従来の公正証書と異なるポイントとして、公証役場へ出向くことなく証拠能力が高い公正証書を完成させられることが制度上は可能となった点があげられます。移動の負担がないため、体力が低下した高齢者やAさんのように遠方に住む子供がサポートしたい場合にフィットする仕組みといえます。

ー従来の「紙」による公正証書と、デジタル版では何が違うのでしょうか?

大きな違いは、保管の安全性と情報の検索性です。紙の公正証書は紛失や盗難、災害による消失のリスクがゼロではありませんでしたが、デジタル化された公正証書は強固なサーバーで電子データとして保管されます。

また相続が発生した際、遺言書について全国の公証役場からオンラインで迅速に照会できるようになります。さらに、紙の原本を作成・保管するための費用が不要になるなど、コスト面でのメリットも期待されています。

ー公証役場に出向かず公正証書を作成する場合、具体的にどのような手順で作成を進めることになるのでしょうか?

法務省はおおまかに以下のように説明しています。

まずは「事前相談と資料送付」が必要です。あらかじめ行政書士などの専門家や公証人と、メールや電話で内容を打ち合わせし、戸籍謄本などの必要書類のデータを公証人へ送付します。

次に、公正証書作成にあたって遺言者は、マイナンバーカード等で電子データに電子署名、電子証明書を付してインターネット送信します。公証人は、電子証明書により電子署名の有効性を確認し、本人確認を完了させます。

続いて、遺言者からの申出があり、公証人が相当と認めた場合にはウェブ会議ですすめられます。公証人は通話者の本人確認、通話場所が適切かなどをチェックし、遺言者はウェブ画面上で内容等を確認します。

その後、公正証書は原則として電子データで作成し、遺言者等はリモートでの電子サインをおこないます。最後に公証人が官職証明書を用いて電子署名し公正証書を完成させます。

公証人法の一部改正により、公正証書遺言の作成もデジタル化されました。ただし、ウェブ会議を通じたリモートでの作成は「公証人が相当と認めた場合」に限られており、誰もがリビングでリラックスしながら公正証書遺言を作成するというわけにはいかないようです。

法務省は恣意的な運用とならないよう、ウェブ会議の相当性について通達で基準を定めるとしています。また、民法のルールが変更となった訳ではないので、証人が必要な点は従来通りです。

なお、2026年4月3日に閣議決定された民法改正案における「デジタル遺言(保管証書遺言)」についての方向性は、今回の公正証書のデジタル化と大きな流れとしては同じであるものの、別物である点にご注意ください。

関心を持ってもらうために「こんな方法もあるみたいだよ」と、軽い話題として振ってみることから始めるのはいいかもしれません。

◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士

長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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