京都の老舗レストランの金庫から見つかった91年前のサービスマニュアル 現代でも十分に通用する驚きの完成度 気になる謎のメニューも
創業100年を迎えた京都の老舗「スター食堂」で、1935年に発行されたサービスマニュアルが見つかった。その内容は、現代の飲食サービスにほぼそのまま通用するほど洗練されているという。スター食堂社長・西村裕行氏に聞く。
なお、表紙のタイトルが「サービス」と表記されているのに対し、本文は「サーヴィス」と表記されている。引用するにあたって、漢字表記は現代に置き換え、言葉遣いは原文のままとした。
■初めてステーキを見た芸妓が気分を悪くして食欲をなくしたエピソードも
スター食堂は1925年、京都で創業した洋食レストラン。創業の地・中京区寺町に總本店を復活させる際、金庫から「サービス・リーダー」と題された古い冊子が見つかった。それは1935年、創業者・西村寅太郎氏(裕行氏の曾祖父)の代に制作された、全55ページにわたるサービスマニュアルだった。
内容に関して、裕行氏は「全て、今と変わらないことが書いてあります」と驚く。客への心構えはもちろん、給仕の順序も現代と同じだという。サービスの心得や手順のほかにも、初めてステーキを見た芸妓が血の滲むような肉を見て気分が悪くなり、その日は食事ができなかったエピソードを引き合いに出して「新しい文化をどう浸透させるべきか」の考察まで記されている。
■「見えすいた丁寧さは失礼」本質を突く心得
「サービス・リーダー」は創業者・西村寅太郎氏の言葉から始まり、「はしがき」に続いて4章立ての構成になっている。
「第一章 サーヴィスと使命」は、接客業における基本的な解説が書かれており、サービスの定義を端的に示している。
「要はよりよく客に満足を与へる事、即ちよりよく顧客を遇する事に外ならないと思ひます」
当時の書き方が「お客様」ではなく「客」「顧客」とストレートな呼称なのが興味深い。
「第二章 顧客の接客方法に就て」では、具体的な身だしなみや動作を規定。例えば「服装」は清潔にして、客に不快感を抱かせないこと。「容姿」は髪を整えること、爪を切ること、靴を磨くことなど外見に関すること。「言語」は、無遠慮・傲慢・不明瞭な言葉を慎むことと併せて「標準語に依り丁寧明瞭にすべき」とある。
「動作」も、言語と同じく傲慢・無遠慮を禁じ、粗暴であってもいけないとある。しかも、丁寧・親切にすることを求める一方で「見えすいた丁寧さはかえって失礼である」と、接客の本質も説いている。
他にも、客前でのあくび、喫煙、食堂でスタッフへの叱責を禁止するなど、現代の飲食店でも常識とされる内容が、91年前にはすでに文章として示されていた。さらに、書かれていない部分については「賢明な皆様の常識に任せる」とも記されている。
「第三章 使命に対する自覚」は、従業員の使命について説かれている。章の結びに「五本の指の如く協力一致、一致団結、スター王国の建設こそ食堂に働く私たちと云はず、スターオール従業員の自覚して生命とすべき」とあることから、当時は会社と従業員の関係が、現代よりも濃密であったことがうかがえる。
「第四章 部員の常識」は、第二章で説かれていた「言葉遣い」について細かく規定されている。
一例を挙げると--
・送迎:「入らっしゃいませ」「どうぞこちらへ」「何人様でございますか」
・応接:「ご注文を承ります」「お飲み物は如何でございますか」
・その他:電話を受けたとき「毎度有難うございます、寺町のスター本店でございます」「貴方様はどちら様でございませうか」
クレームを受けたとき「手前共の不注意でございます」
注文を通す際の、伝票に記載する略字の規定もある。
これも一例を挙げると--
・オムレツ(ミンチ肉入り):「ミ・オ」
・ビーフカツ:「カ」
・ウサギのカツ:「ウサ・カ」
・ドーナツとコーヒー:「ド・コ」
■どんな料理だったのか見当すらつかない謎のメニュー「新聞朝食」
略字の規定からは、当時のメニューをうかがい知れるのも面白い。カレーやグラタン、ビーフシチュー、サンドイッチ、コーヒーなど、現代と変わらない品目が並ぶ。しかし、裕行氏にも正体が不明なメニューがあるという。
「朝食メニューにある『新聞朝食』『新聞料理』。これが何なのか分からないのです」
名称からは想像もつかないこの謎について、裕行氏はOB会の最高齢メンバーに聞き取りをしたいと語る。
さて、今後は「サービス・リーダー」の精神を、現代のサービスにも取り入れたいと語る裕行氏。
「我々が模索していることが、すでに書かれていました。寅太郎さんに叱咤激励を受けた気分です」
裕行氏は、この発見を原点回帰の機会と捉えている。「新聞朝食」の謎解きとともに、スター食堂の精神を次世代へどう伝えていくのか。その挑戦は、これからも続いていく。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)
