口ぐせは「早く死にたい」 90代の実母を介護する50代娘 仕事との両立で心身が限界に…高齢の親との向き合い方は?【社会福祉士が解説】

都市部のメーカーに勤務する50代、女性の美佐子さん(仮名)は、車で15分程度の距離に住んでいる90代の実母の介護に通う日々を送っています。身体機能の低下もみられるものの、認知症の症状自体はまだ軽い母。しかし、顔を合わせるたびに繰り返される言葉に、美佐子さんの心は限界を迎えていました。

「あちこち痛くて辛い。こんなに長生きしたくない」

「お荷物になるだけだから、早くお迎えが来てほしい」

当初は「そんなこと言わないで、長生きしてよ」と励ましていましたが、毎日繰り返される「死にたい」というネガティブな訴えに、最近では返事をする気力さえ失っています。仕事とケアの両立による疲労も重なり、ふとした瞬間に「こんなに辛いなら、いっそ母の望み通りに……」という暗い感情がよぎり、そんな自分に自己嫌悪する悪循環に陥っています。

■高齢者の「死にたい」その背景にある「3つの喪失」

高齢者が口にする「死にたい」という言葉は、医学的・心理学的には「希死念慮(きしねんりょ)」あるいは「消極的死願」として理解されることがあります。これらは、若者の衝動的な自死願望とは違い、加齢に伴う様々な要因が絡み合っています。

主な背景として、以下の3つの要素があると言われています。

▽1.体の痛みと「出来なくなること」への喪失感(身体的要因)

慢性的な体の痛み、視力や聴力の低下、排泄の失敗など、今まで当たり前にできていたことができなくなる喪失体験です。「自分の体が自分でないよう」という感覚は、人間の尊厳(QOL:Quality of Life)を著しく低下させます。この苦痛から逃れる唯一の手段として「死」を想像することがあります。

▽2.社会的な役割を失うことと孤独感(社会的要因)

配偶者や友人との死別、仕事や家事から引退することにより、「誰からも必要とされていない」という「社会的孤立」になり孤独を感じやすくなります。会話が少なくなることは抑うつ状態を招きやすく、自己肯定感を下げることに直結してしまいます。

▽3.「子どもに迷惑をかけている」という心理的負債感(心理的要因)

日本人の高齢者に特に多く見られるのが、「子どもに迷惑をかけている」という「対人的負債感(Burden awareness)」です。世話をされることへの申し訳なさが、「自分が存在しない方が家族は幸せなのではないか」と認知を歪めてしまうことがあります。

■介護する家族の本音は?

親から毎日「死にたい」と聞かされる家族のストレスは計り知れません。介護経験のある方への様々なインタビューからは、綺麗事では済まされない家族の本音が浮き彫りになっています。

「また始まった」というイライラ

「最初は心配したが、今は挨拶代わりに聞こえる。聞いているこちらの気が滅入る」という徒労感

「正直、解放されたい」という期待

「今の自分には何もできない」という無力感

「親を満足させてあげられない自分の不甲斐なさを責められている気がする」という罪悪感

ここで重要なのは、「親の死を願う自分は冷酷なのではないか」と自分を責めないことです。これは「介護うつ」の前兆や、終わりの見えないストレスに対する正常な防衛反応(Compassion Fatigue:共感疲労)であり、多くの介護家族が抱く普遍的な感情です。

■まずは傾聴。そして医療への連携へ

では、実際に「死にたい」と言われた際、どのように対応すべきでしょうか。精神的なケアと実務的な対策の両面から解説します。

▽1.否定も肯定もしない「受容的傾聴」

「そんなこと言わないで(否定)」や「頑張って(励まし)」は、高齢者の「辛さを分かってほしい」という気持ちを遮断してしまいます。そこで有効なのは、その感情をそのまま受け止める「受容」です。

NG例:「またそんなこと言って。元気なんだからいいじゃない」

OK例:「毎日身体が痛いのは辛いね」「迷惑なんて思っていないけれど、そう感じてしまうんだね」

言葉の裏にある「苦痛」や「寂しさ」に焦点を当てて相槌を打つことで、本人の承認欲求が満たされ、発言頻度が減るケースがあります。

▽2.「老人性うつ」の可能性

「死にたい」という発言に加え、食欲不振、不眠、趣味への興味喪失がある場合、「老人性うつ病」の可能性があります。これは脳内の神経伝達物質の異常などが関わる「病気」であり、性格の問題ではありません。

心療内科や精神科、老年精神科を受診し、適切な薬の処方やカウンセリングを受けることで、劇的に改善する場合があります。かかりつけ医やケアマネジャーに相談し、専門医へ繋ぐタイミングを見逃さないことが重要です。

▽3.ACP(アドバンス・ケア・プランニング)への転換

「死にたい」という言葉を、前向きな終末期医療の話し合い、いわゆる「人生会議(ACP)」のきっかけにする方法です。本人の認知機能に問題がなく、精神状態が安定している時を見計らって話し合ってみてください。

「お母さんは、もしもの時はどうしたい?」

「延命治療はどう考えている?」

このように『人生の最終段階における医療・ケアに関する本人の意思を記した文書(事前指示書やリビングウィルと呼ばれるもの)』の作成という具体的な作業に落とし込むことで、本人は「自分の最期を自分で決められる」という自己効力感を取り戻せます。また、家族にとっても「親の意思を確認できた」という安心感に繋がり、漠然とした死への不安を整理することができます。

■「死にたい」=「理解して欲しい」への変換

美佐子さんは、実母の主治医からのアドバイスを受け、母の言葉を「死にたい」という願望ではなく、「今の苦しさを理解してほしい」というSOSのサインとして捉え直しました。そして「死にたい」と言われた時、「痛いのが辛いのね」「私がいるから大丈夫だよ」と背中をさすることに徹しました。

その結果、母の口癖が完全になくなったわけではありませんが、その頻度は激減しました。美佐子さん自身も「できることはやっている」という実感を得て、罪悪感から解放されつつあります。

親の「死にたい」は、家族にとってあまりに重い言葉です。しかし、それを真正面から受け止めすぎず、背景にある「痛み」や「寂しさ」に目を向け、時には医療や介護サービスの力を借り、あなた自身の心を守ることが、結果として長く続く介護生活を支える基盤となります。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)

社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士、身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)

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