「マツエ、サムイ」 熊本に行く理由、ヘブンはなぜ優しい嘘をついたのか【ばけばけ】
今週は、連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合ほか)第19週「ワカレル、シマス。」が放送中だ。熊本の中学で英語教師としての働き口を見つけ、松江を離れたいと言い出したヘブン(トミー・バストウ)。その理由は「マツエ、サムイ。フユ、ジゴク」に尽きるのだと言い張る。
しかし、トキ(髙石あかり)はすぐに首を縦に振らない。共に暮らす司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)のほかにも、勘右衛門(小日向文世)夫妻、雨清水家のタエ(北川景子)・三之丞(板垣李光人)と、ヘブンの給料で養っている家族がいるのだ。
ヘブンはみんな熊本に連れて行けばいいと言うが、トキは、生まれ育った松江からいきなり彼らを引き剥がすことは難しいと考えていた。しかし、トキとヘブンが熊本行きを打診すると、勘右衛門とタエはすぐさまヘブンの真意を理解し、トキを家族という呪縛から解放する決意をする。
2月12日に放送された第94回では、家族と離れたくないトキがヘブンに「なして私のすべてを奪おうとするんですか!」と涙ながらに訴えた。そこでヘブンが打ち明けた「熊本に行く本当の理由」は、いまだに松江の町から消えることのない人々の好奇の目から、トキを守りたいというものだった。
■セツとハーンがなぜ松江を離れたのか…本当の理由は誰にもわからない
こうしたヘブンの「優しい嘘」のエピソードは、いかにして生まれたのか。モデルである小泉セツさんと小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は実際どうだっだのか。制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。橋爪さんは、「本当のところはわからないんです」と言い、こう続ける。
「セツさんとハーンがこの時期に松江から熊本に移ったのは史実通りです。でも、『じゃあ、なぜ?』という決定的なところは、もちろんどの書物にも記録が残っていない。小泉八雲研究の中では、熊本の中学のほうが条件が良いからだとか、本当はセツさんがもっと都会に行きたがっていたからだとか、あるいは本当に松江が寒いからだとか、いろんな説があります。でも、ご本人たちにとって何がいちばん重要だったのかは、わからない。そこを描くのが、ドラマなのだと思います」
■ふたりの中で何がいちばん大切なのか。それを描くのがドラマ
「『ばけばけ』というドラマにおいては、トキとヘブンの関係を軸に物語を作りたいと思いました。現実的に『熊本中学のほうが給料がいいから』とする方向もあるのかもしれないけれど、それよりもトキとヘブンの関係を通じて見たときに、何がいちばん大切なのか。トキ本人がはっきりと自覚していなくても、『松江での過ごし難さ』をヘブンがどう見てあげて、トキはどう乗り越えていくのか、というところがふたりのドラマだと思うので、その部分をフィーチャーして描きたいと考えました」
■人々の中に横たわる微かな悪意
続けて橋爪さんは、第17週・18週と2週にわたって描かれた「ゴシップと炎上と集団心理」を安易に「一件落着」とせず、熊本行きの理由につなげた意図についてもコメントした。
「もちろんドラマの中で『熊本の中学のほうが給料が良い』というような台詞も出てきますが、それはあくまでも情報に過ぎないといいますか。『心が揺さぶられるふたりの関係』という点に着目すると、やはり『いまだに消えていない人々の中傷の火種からトキを守りたい』というのが、いちばんの理由になってくるのかなと。現代にも通じる『直接何か言われるわけではないけれど、人々の中にいつまでもくすぶる微かな悪意』みたいなもの。その渦中に立たされたとき、人はどうすればいいのか、というようなことを描きたいと思いました」
■「君を守りたいから」では王子様的すぎる
また、なぜ「マツエ、サムイ」というヘブンの嘘を、木曜日の回(第94回)まで引っぱったのかについても説明した。
「たとえばヘブンが、トキの無自覚のうちにある悩みを見越して『君を守りたいからすぐに熊本に行こう』と言ってしまうと、なんだか白馬の王子様的すぎる気がして。それに、そういう言い方をされると固まってしまうのがトキだと思うんです。またヘブンとしては、熊本行きの理由が『トキのせい』になってしまうことは、なんとしても避けたい。だから、自分のわがままということにして『サムイ』を理由にした。『それ以上でも以下でもない』と、ただ言い続けるのが、ヘブンらしい優しさなのかなと」
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明日放送される第95回で、トキはどのような決断をするのだろうか。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)





