父の遺言書をうっかり開封…「罰金5万円」は本当?遺言は無効になってしまうの?【行政書士が解説】

先日父親を亡くしたAさんは、気丈に振る舞う母親を支えながら、慌ただしく葬儀を終えます。葬儀を終えて数日後、Aさんは父親の書斎を整理していました。埃っぽい部屋には、万年筆のインクの匂いがかすかに残っています。

机の引き出しを整理していると、奥から一通の封筒が見つかりました。少し黄ばんだその封筒には宛名がなく、父親の丸い字で何か大切なことが書かれているように感じられました。きっと残された家族への手紙に違いないと思ったAさんは、込み上げる気持ちを抑えきれず、その場で封を切ってしまいました。

しかし、中から出てきたのはただの便箋ではなく、「遺言書」と題された書面でした。その文字を見た瞬間、Aさんの背筋は凍りつきます。「封印のある遺言書は、勝手に開けてはいけない」ということを知っていたAさんは、血の気が引いていくのが分かりました。良かれと思って開けてしまった封筒が、とんでもない事態を引き起こすかもしれない。Aさんは呆然と立ち尽くすしかありませんでした。

Aさんのように、封印された自筆の遺言書を検認前に誤って開封してしまった場合、どうなってしまうのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

■開封しても遺言書は無効にはならないが…

ー封印のある遺言書を検認前に開封した場合、遺言書は無効になりますか?

いいえ、遺言書を勝手に開封してしまっても、それだけで遺言書が無効になることはありません。遺言書の有効性は、法律で定められた形式(例えば自筆証書遺言であれば、全文・日付・氏名の自書と押印があるかなど)に沿って作成されているかどうかで判断されます。

ただし、開封したことで他の相続人から内容の改ざんを疑われるなど、トラブルの原因になる可能性はあります。

ー誤って開封してしまった後、相続人は何をすべきですか?

たとえ開封してしまったとしても、その遺言書をそのままの状態で、速やかに家庭裁判所に提出し、「検認」の申立てを行う必要があります。

検認とは、公正証書以外の遺言について、相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状や日付、署名といった現在の状態を確認し、偽造や変造を防ぐための手続きです。申立ては、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。なお、公正証書ではないものの、自筆証書遺言の保管制度により保管されている自筆証書遺言については、検認の必要はありません。

ー開封してしまった相続人に何かしらのペナルティはありますか?

民法第1005条では、正当な理由なく遺言書を家庭裁判所に提出することを怠ったり、検認を経ずに遺言を執行したり、家庭裁判所以外の場所で開封した者に対し、5万円以下の過料に処すると定められています。

検認をしなければならない者として、遺言書の保管者や、遺言書を発見した相続人が挙げられます(民法第1004条)。 過料が科されるかどうかは、非訟事件手続法にしたがって裁判所が判断します。故意に開封した場合などは、過料を科される可能性が高まります。

ー開封してしまった遺言書でも、検認は受けられますか?

はい、受けられます。むしろ、開封してしまった場合でも、検認の手続きを省略することはできません。検認は、遺言の有効・無効を判断する手続きではないためです。

家庭裁判所には、誤って開封してしまったまま検認を申し立てることが大切です。検認手続きを経た後、「検認済証明書」が発行され、その遺言書を使って不動産の名義変更や預貯金の解約といった相続手続きを進めることができるようになります。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士

長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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