「鍵閉めた?」が止まらない 職場では手洗い20分 「誰かを轢いたかも…」運転中も不安に 心配性と思っていた漫画家が直面した“強迫性障害”
過度の心配性と思っていたら、強迫性障害だった…。そんな実体験を漫画化し、強迫性障害の周知に取り組んでいるのは、漫画家のつくし ゆかさん(@hrm_i0630)。
ゆかさんは自著『極度の心配性で苦しむ私は、強迫性障害でした!!』(燦燦舎)を通して、強迫性障害の症状だけでなく、当事者が感じるリアルな苦しみも伝えている。
■中学生の頃から「良い成績を取らなければ…」と自分を追い込むように
もともと心配性な性格だった、ゆかさん。自身に強迫的な思考があるのを自覚したのは、中学生の頃だった。
テスト前には「100点を取らなければ…」と強く思い込み、睡眠時間を削って勉強。その強迫観念は高校や専門学校に進むつれ、さらに強まっていった。
「親も勉強に厳しかったので、学生時代は『怒られないようにしなきゃ』とか『良い成績を取らなきゃ』と、自分を追い込んでいました」
子どもにとって、親は世界のすべて。ゆかさんは「子は親に従わなくてはいけない」と思い、小1にしてイラストレーターの夢を断念。将来は親が望む通り、看護師にならなければ…と思うようにもなった。
強迫的な思考は、次第に日常生活も脅かすようになる。外出前にはガスコンロの栓や蛇口の閉め忘れ、窓や玄関ドアの施錠などが気になって2時間以上、確認を繰り返すように。外出時には何度確認しても玄関ドアのカギが閉まったように思えなくなった。
また、車を運転している時には「もしかして、誰かを轢いてしまったのではないか…」と不安になり、確認のため、その場へ戻ることも。
本書には、そうした強迫性障害のリアルな苦しみや周囲から“変な人扱い”される辛さがリアルに描かれている。
「症状が出るのはもちろん辛かったですが、それ以上に“理解されないこと”苦しかったです。あまり知られていない病気なので、症状が出ると『努力が足りない』や『確認をやめなさい』、『わざとやってるんじゃないの?』と言われたこともありました」
■職場で師長から精神科の受診を進められて「強迫性障害」が判明
親の望み通り、ゆかさんは専門学校を卒業して看護師になったが、業務中にも強迫性障害の症状に悩まされた。注射や点滴、内服薬などを何度も確認したり、手洗いに時間がかかったりし、業務に支障が…。
精神科を受診したのは、20歳の頃。きっかけは、職場で20分ほど手を洗い続けるゆかさんを見た師長から受診を進められたこと。受診した結果、自身が強迫性障害であることを知り、ゆかさんは衝撃を受けた。
「まさか自分が精神疾患を患うなんて思ってもみなかったので、驚きました」
ゆかさんは薬物療法と並行して、「不安になっても確認を我慢する」という暴露反応妨害法という治療を受けることになる。だが、薬物療法は眠気や倦怠感といった副作用が強く現れて業務に支障をきたしたため、半年ほどで中断。
暴露反応妨害法もゆかさんにとっては耐えがたいほど過酷で、半年ほどで中断した。
そんな中で、強迫性障害との向き合い方を見直す大きなきっかけとなったのは、ガンを患い、余命宣告されていた父親の死。どんなに準備していても、起きる時には起きてしまう。それなら、不安や確認に時間を費やすよりも、“今”を大切に生きたほうがいいのではないか。そう思うようになり、強迫観念が和らいだ。
「約10年間は治療を受けずに生活してきましたが、30歳の頃から薬物療法を再開しました。今でも時々、不安を感じることはありますが、症状が一番ひどかった時期と比べると、確認行為は1/30くらいまで減っています」
■当事者と精神科医が語る「強迫性障害」と心配性の見分け方は?
本作で強迫性障害についての解説を寄せている倉野医師によれば、「確認行為に20分以上かかっている場合は、強迫性障害の可能性がある」とのこと。強迫性障害は、自分ひとりでは治療が困難なため、心当たりがある人は早めに精神科や心療内科を受診してほしい。
「強迫性障害と心配性の大きな違いは、日常生活に支障をきたしているかどうかだと思います。当事者は『おかしな行動をしている』という自覚があるので、周りに知られないように隠れて確認行為をすることがあります」
実際、ゆかさんも確認行為を見られることに恥ずかしさや辛さを感じ、周囲から「変だ」や「おかしい」と言われるたびに、自分を責めてきた。
だからこそ、実体験を伝えることで強迫性障害という病名や具体的な症状が広く知られ、当事者の孤独感が少しでも軽減してほしいと願っている。
「治療の過程では副作用や不快感に悩まされることもあるので、辛い思いをされている方も多いと思います。でも、私がそうだったように、暗くて長いトンネルにも必ず出口はある。無理をせず、自分が心地いいと感じる場所で、少しずつ治療を続けていってほしい」
なお、ゆかさんは発症から20年が経った現在の日常や強迫的な思考を和らげるヒントを、コミックエッセイ『強迫性障害とともに生きてみた。 -不安が軽くなる30のヒント』(ラグーナ出版)で伝えてもいる。
強い不安感やこだわりによって日常生活に支障が生じると、自分がダメなように思えてしまうが、それは生き延びるために頑張って生まれた思考である場合も多いと思う。ゆかさんの体験談に触れることで、そんな自分を否定しなくてもいい生き方を探してほしい。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)





