「あの人、優秀な子のママとしか付き合わないんですよね」…息子の進学先を伝えた直後、途絶えたランチ会への誘い “中高一貫校”保護者間に成績の壁
中学受験という大きなハードルを越えて、名門の中高一貫校に進学した子ども。その入学を機に、保護者同士の新たな付き合いが始まります。成績順位や志望校、部活動の実績など、表向きには「子どもを思う親」の会話に見えても、そこには目に見えない格差や選別意識が潜んでいることも。神奈川県在住のJさん(50代)は、ある“情報通”ママとの出会いを通じて、保護者の世界に広がる偏差値ヒエラルキーの実態を目の当たりにしたのです。
■成績談義が止まらないママ友との出会い
息子が中高一貫校に進学した春、Jさんは初めての保護者会でUさんというママと親しくなりました。すぐに連絡先を交換し、お互いパート勤務ということもあり、時間が合いやすくて、度々ランチに行くようになりました。
Uさんの子どもは吹奏楽部に所属。部活動を通じて保護者間の交流もあったようで、とても学校生活について詳しく、子どもたちの活躍についても、常に網羅していました。
「A君はこの前の中間テストで学年1位だったんだって。Bさんは模試で全国上位、生物部のC君は、研究論文が雑誌に掲載されるらしいよ」
そんなことを毎回語るUさんに対して、当初は「そんなに知ってるなんてすごいな」と感心していたJさん。しかし次第にそれが「情報収集のための社交」であることに気づき始めたのです。
■「〇〇君って知ってる?」から始まる会話の本音
UさんのLINEやランチでの会話の切り出しは、決まって「〇〇君って知ってる?」から始まります。その後に続くのは、必ずと言っていいほど「とても優秀」という言葉。成績順、志望校、模試の偏差値、部活の実績まで…まるで生徒ごとのプロフィールを一覧で管理しているかのようでした。
一度、「どうしてそんなに詳しいの?」と聞いたことがあります。するとUさんは「ママ友から聞いたり、子どもから聞いたり、自然と情報が入ってくるの」と笑顔で答えました。
しかし、別のママ友であるKさんがふと漏らした言葉で、Uさんが“情報通”である理由の一端が明らかになったのです。
「あの人、優秀な子のママとしか付き合わないんですよね。私も最初はランチに誘われて行ったりしてたけど、うちの子の成績が下位ってわかったら、ぱったり誘われなくなったんです」
■ママ友の社交システムに潜む“静かな序列”
その言葉に一瞬戸惑ったJさんでしたが、思い返せば、Uさんが主催するランチ会や飲み会のメンバーは、いつも“優秀な子どもを持つ母親”ばかりだったことに気がつきました。ある日誘われたランチ会では、参加していた10人弱のメンバーの子どもたちは皆、大手塾に通い、最難関の国立大学を志望。しかも将来つきたい職業までおおまかに決まっているようでした。
その時、Jさんの子どもは文系か理系かさえ迷っている段階。国立大学を目指して大手塾には通っているものの、偏差値によるヒエラルキーの中では完全に浮いてしまっていました。とはいえ、教育熱心なママ友たちと情報を共有できるランチの時間は、楽しいものでした。
■「情報通Uさんから連絡がこなくなった理由」
高校生活の終盤、大学受験がいよいよ現実味を帯びてきた頃、JさんはUさんとの会話で受験の話題を避けるようになりました。我が子の模試の結果が思わしくなく、国立大学を志望しつつも、私立の滑り止めですら不安を感じていたからです。Uさんに息子の状況を話せば、きっと他のママ友との会話のネタになると思ったのです。
結果として、Jさんの息子は第一志望だった国立大学の受験を断念。地方の国立大学に出願しましたが、それも不合格になりました。Uさんから受験期間中も何度か連絡がありましたが、息子が滑り止めにしていた私立大学に進学するという結果を報告した後から、Uさんからの連絡はぴたりと止まりました。
「受験が終わったら、お疲れ様ランチ会開催しようね!」と言っていたのに。
Uさんらしい“選別”の終着点を見た気がしたのです。
■“親の友情”すらも成績で選別
子どもの受験を通して、Jさんが最も強く感じたのは、「偏差値とは、進学だけでなく、人間関係すらも左右するツールになってしまうのか?」という疑問でした。ママ友関係が、子どもの成績や志望校といった基準で揺らいでしまうのは、とても不思議で、どこか切ないとJさんは感じています。
Uさんが悪意を持って行動していたわけではないことも、Jさんにはわかります。彼女なりに、子どもの学力向上のために有益なつながりを求めていたのでしょう。しかし、そこに巻き込まれた側からすると、自分自身も通知表で評価されているような、居心地の悪さを感じずにはいられなかったのです。
「子どもが受験に失敗した」そのことよりも、「仲が良かったはずのママ友との関係が失われた」ことの方が、Jさんには何より悲しく、そして残念に感じられたのでした。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)
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