10月から変わる新型コロナの医療費 治療薬も一部自己負担へ【豊田真由子が解説】

10月1日から、新型コロナウイルス感染症に関する医療費などが変更になります。現在は第9波と言われるものの、以前に比べると発信される情報は格段に減っており、また、実際に何がどう変わるのかが分かりにくい、といったこともあると思いますので、状況を整理してみたいと思います。

なお、新型コロナに関する現時点の私の基本的考えは、「新型コロナだけを、ずっと特別扱いしていくわけにはいかない(ただし、ハイリスクの方や深刻な後遺症等への理解は必要)」というものです。

■感染等の状況は?

本年6月頃から感染が増え始め、現時点の最新データ(9月11~17日)の新規感染者数は、定点(約5000の医療機関)当たり17.54で、新規入院者数の合計値は8920人となっています。8月下旬のピーク時からは減少傾向にあり、昨冬の第8波ピーク時の7割程度の状況でした。現在の新規感染者の年代(定点当たり人数)としては、10代前半までの児童の感染者数が多くなっています。

■個々の変異について過剰に反応する必要はない

新たな変異株がよく話題になりますが、ウイルスは、感染・増殖を繰り返す中で少しずつ変異していくものであり、「新しい変異株が出た!」と都度騒ぎ立てることには、あまり意味がないと思います。注目すべきなのは、変異によって、感染性・重篤性やワクチンの効果といった「ウイルスの性質」が大きく変化しているかどうか、です。

そして、ウイルスの感染性や免疫逃避等については、「細胞レベルでの実験によるデータ」と「実社会における感染拡大やワクチン効果への影響等」は、同一ではありませんので、その点にも留意が必要かと思います。

変異株の状況を知るには、WHO(と国立感染症研究所)による分類が参考になります。変異のリスク分析評価に応じて、下記の3種類に分類されています。

・懸念される変異株(Variants of Concern:VOC)

公衆衛生への影響が大きい感染性や重篤度、治療・ワクチン効果等の変化が明らかになった変異株

・注目すべき変異株(Variants of Interest:VOI)

公衆衛生への影響が見込まれる感染性や重篤度、治療・ワクチン効果等に影響を与える可能性がある、または確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(検疫での一定数の検知、国内でのクラスター連鎖、日本との往来が多い国での急速な増加等)

・監視下の変異株(Variants under Monitoring:VUM)

公衆衛生への影響が見込まれる感染性や重篤度、治療・ワクチン効果等に影響を与える可能性がある変異株、または上記VOC/VOIに分類されたもので、世界的に検出数が著しく減少などしているもの

現時点で公表されている最新の東京都のゲノム解析(8月28日~9月3日)では、EG.5(エリス)が33.7%、XBB1.16が23.5%、XBB1.9.1が10.2%、BA2.75(ケンタウロス)が3.1%となっています。9月26日時点で、日本で6件検出されているBA.2.86(ピロラ)も出てきています。

現在主流となっているEG.5.1(エリス)は、現時点の分析としては、感染者数増加の優位性を見せてはいますが、重症度や感染性の上昇という知見はなく、今月から始まったオミクロン株対応のワクチンの有効性が低下するという報告はありません。中和抗体による免疫から逃避する可能性を指摘する研究(いずれも査読前論文)もありますが、一定した見解は得られていません。

世界的な検出割合の上昇を受け、WHOは8月9日に、EG.5系統を②注目すべき変異株(VOI)に指定しました。

BA.2.86(ピロラ)は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあり、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が生じているという研究(いずれも査読前論文)もありますが、一定した見解は得られていません。現時点で、重症度の変化や感染性に関する疫学的、臨床的知見はありません。

検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、BA.2.86系統を③監視下の変異株(VUM)に指定しました。

■10月から何が変わる?

今回の見直しは、患者については、コロナ治療薬の公費負担と入院医療費の補助額、医療機関等については、病床確保の補助金、診療報酬の特例加算、高齢者施設への支援です。

以下、具体的に見てみます。

▽治療薬

新型コロナ治療薬の費用は、外来・入院とも、現在は全額が公費負担となっていますが、10月から、自己負担の上限額は、医療費の自己負担割合が1割の方は3000円、2割の方は6000円、3割の方は9000円となります。

医薬品としての本来の価格は、標準的な1治療当たり、パキロビッドパック 9.9万円、ラゲブリオ 9.4万円、ゾコーバ 5.2万円なので、例えばラゲブリオの場合、「1割負担なら、本来約9400円になるところが3000円、3割負担なら、本来約28200円になるところが9000円になる」ということになります。

▽医療費

治療薬以外の医療費(外来・入院)は、5月8日の5類移行以後は、すでに、公的保険の自己負担分を支払う形になっています。

<外来>

厚生労働省の試算では、新型コロナ疑いで、外来の医療機関にかかり、治療薬を投与された場合には、上述の治療薬分とそのほかの検査や医療費をあわせると、自己負担割合が1割の方4090円、2割の方8180円、3割の方12270円になるということです。

<入院>

入院医療費については、5月8日の5類移行以後は、公的保険の自己負担部分が高額になった場合に、「高額療養費制度(医療機関で支払った患者の自己負担の額が、年齢や収入に応じてひと月ごとに定められた上限額を超えた場合には、その超えた金額が支給される制度)」を適用した上で、さらに最大2万円が補助されてきましたが、10月からは補助額が半額の最大1万円となります。

厚生労働省の試算では、1割負担の方が、新型コロナで7日間入院した場合、コロナ治療薬分を除いた自己負担額は、住民税非課税世帯の方は14600円、年収約370万円までの方は所得に応じて、39800~47600円となるということです。(いずれも、実際に行われる治療内容によって、変わってきます。)

▽病床確保料や診療報酬特例措置の見直し

これまで国は、医療機関が新型コロナの入院患者の受け入れに備えて病床を空けた場合、「病床確保料」として補助金を支給してきましたが、通常医療との公平性等を考慮し、10月からは、対象を「酸素投与や人工呼吸器が必要な患者のための病床を確保した場合」に限ることとし、また、感染状況が一定の基準を超えて拡大した場合に限って支給することとしました。

また、新型コロナ患者への医療提供体制を構築・維持するため、手厚い点数を付けてきた診療報酬の特例措置についても見直しが行われ、必要な感染対策を実施してコロナ患者を受け入れる、往診を行う、重症や中等症の入院患者を受け入れること等に対する診療報酬が縮減されます。

▽高齢者施設などへの支援

重症化リスクの高い高齢者が入所している施設等への公的支援については、感染が落ち着いている状況においても、新型コロナに感染した入所者が入院しない場合には、その施設内で療養しており、また、今後の感染拡大において医療ひっ迫を避けることなども考慮して、要件や金額等を見直した上で、継続することになっています。

■今秋のワクチン接種

9月20日から、新たにオミクロン株派生型対応ワクチンの接種が開始されました。今回は、「希望するすべての方について、オミクロン株派生型対応ワクチンを、無料で接種する」こととなっています。(本年春の接種は、接種対象が、医療従事者や、高齢者・基礎疾患のある方などに限られていました。)

そして、予防接種法上の「接種勧奨(接種を勧める)」や「努力義務(接種するよう努めなければならない)」について、今回の接種からは高齢者や基礎疾患がある重症化リスクの高い人のみ対象とし、それ以外の65歳未満の健康な人には接種勧奨や努力義務を適用しないことにしました。

また、現行法制上、ワクチン接種の全額を公費で負担する「臨時接種」は、2024年3月末までとなっており、来年度からは、高齢者や基礎疾患を有する方については予防接種法の「定期接種」として一部公費負担とし、それ以外の方は「任意接種」として(希望する場合に)全額自己負担で接種する、といった方向で検討が行われています。

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新型コロナへの対応については、本年5月(5類移行)からの「幅広い医療機関による自律的な通常の対応への移行」時期を経て、10月からは「冬の感染拡大に備えた重点的・集中的な入院体制の確保等」の時期とされ、そして、来年4月からは「通常の対応への完全移行、恒常的な感染症対応への見直し」を目指しています。

状況が落ち着いてきたとはいっても、重症化する方、亡くなる方もいらっしゃり、深刻な新型コロナ後遺症やワクチンの副反応等の問題もあります。

新型コロナパンデミックの3年の経験と教訓を振り返り、新型コロナ、既存の多くの感染症、そしてまた来るであろう次の新興感染症に対し、国としても個人としても、体制整備や心構えを、日常の中で、改めて構築しておくときではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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